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心理学×シェイクスピア:トロイラスとクレシダ

トロイラスとクレシダ: 恋と戦争の残酷な現実、心理学が解き明かす英雄たちの虚像

『トロイラスとクレシダ』は、トロイア戦争を舞台に、トロイの王子トロイラスと、ギリシャ軍の捕虜クレシダの恋、そして、英雄たちの虚栄心と裏切り、戦争の愚かさなどを、シニカルな視点から描いたシェイクスピアの問題劇です。

この作品では、理想的な恋愛や英雄像は脆くも崩れ去り、人間の弱さ、愚かさ、そして、残酷な現実が、容赦なく突きつけられます。

今回は、現代心理学の分析ツールを駆使し、登場人物たちの言動や心理を深く探求することで、『トロイラスとクレシダ』という複雑な人間ドラマに隠された真実を解き明かし、戦争と愛という、人間の永遠のテーマに、新たな光を当てていきましょう。

1. トロイラス: 恋愛に理想を抱くナイーブな青年

トロイラスは、トロイの王子であり、クレシダに恋をする、若く純粋な青年です。

理想化とロマンティックラブ

彼は、クレシダを理想化し、彼女への愛を、永遠の誓いとして信じきっています。

彼の恋愛スタイルは、「ロマンティックラブ」の特徴を強く示しています。

ロマンティックラブとは、激しい情熱、理想化、そして、相手への独占欲といった要素が特徴的な、恋愛スタイルです。

トロイラスは、クレシダを、他の誰にも渡したくない、唯一無二の存在として見ており、彼女との愛を、永遠に続くものと信じて疑いません。

未熟な情動的知性

しかし、彼は、恋愛経験が乏しく、情動的知性(感情を理解し、コントロールする能力)が未発達なため、自分の感情に振り回されやすく、冷静な判断ができません。

彼は、クレシダとの別れによって、深い絶望怒りに囚われ、自暴自棄な行動に走ってしまいます。

現代社会に生きるトロイラス

現代社会に置き換えると、トロイラスは、例えば、アイドルに熱狂的な愛情を注ぐ、純粋傷つきやすい若者かもしれません。

彼は、アイドルを理想化し、彼女との架空の恋愛に夢中になりますが、現実とのギャップに苦しみ、失望してしまう可能性もあります。

2. クレジダ: 環境に翻弄されるリアリスト

クレシダは、ギリシャ軍の捕虜となり、トロイでトロイラスと恋に落ちますが、その後、父カルカスとの人質交換によって、ギリシャ軍へと送り返されます。

社会的学習理論と環境決定論

彼女は、現実的したたかな女性であり、自らの置かれた状況に合わせて、柔軟に行動を変えていきます。

彼女の行動は、「社会的学習理論」と「環境決定論」という、二つの心理学的な観点から解釈することができます。

社会的学習理論は、人は、周りの人の行動を観察し、模倣することで、行動パターンを学習すると主張します。

環境決定論は、人の性格や行動は、遺伝よりも、環境の影響によって決定されるとする考え方です。

クレシダは、トロイでは、トロイラスを愛し、彼に貞節を誓いますが、ギリシャ軍に戻ると、たちまち態度を変え、ディオミーディーズに心を許す様子を見せます。

これは、彼女が、自らの生存のために、周囲の環境人間関係適応しようとしていることを示唆しています。

現代社会におけるクレシダ

現代社会に置き換えると、クレシダは、例えば、厳しい競争社会の中で、生き残るために、転職を繰り返すキャリアウーマンかもしれません。

彼女は、自分の能力や魅力を最大限に活用し、周囲の状況に合わせて、自らの 立ち位置を有利に変えていくでしょう。

3. アキリーズ: 傲慢と孤立、自己愛の罠

アキリーズは、ギリシャ軍の最強の戦士ですが、傲慢自己中心的な性格で、仲間との協調性を欠き、戦いを拒否します。

ナルシシズムと「自己愛的怒り」

彼の行動は、「ナルシシズム」という性格特性と、自己愛的怒り(自尊心や優越感、重要性が脅かされたと感じた時に爆発する怒り)によって説明できます。

アキリーズは、自分が最強の戦士であるという自負から、他者を見下し、彼らの意見に耳を傾けません。

承認欲求と自己顕示

彼は、周囲からの賞賛や注目を浴びることで、自尊心を満たそうとしますが、その承認欲求が満たされない時、彼は、怒り、周囲に攻撃的な態度をとります。

現代社会に生きるアキリーズ

現代社会に置き換えると、アキリーズは、例えば、天才的な才能を持つが、協調性に欠ける、ワンマンなアーティストかもしれません。

孤独と破滅

彼は、自分の才能を過信し、周囲の人々を見下すことで、孤立を深め、最終的には、それが彼の破滅に繋がっていく可能性があります。

4. ユリシーズ: 知略に長けた戦略家

ユリシーズは、ギリシャ軍の知将として知られる、冷静沈着洞察力に優れた人物です。

彼は、アキリーズのプライドを逆手に取り、彼を戦場に戻らせるための巧みな策略を考案します。

社会的知性と操作

彼の行動は、「社会的知性」(他者の心理を理解し、予測する能力)の高さを示唆しています。

現代社会におけるユリシーズ

現代社会に置き換えると、ユリシーズは、例えば、選挙戦を戦う政治家の参謀、あるいは、企業買収を仕掛ける投資ファンドのマネージャーかもしれません。

彼は、情報収集能力に長け、相手の心理を分析し、戦略的に行動することで、自らの目標を達成しようとします。

5. ヘクター: 勇敢さと高潔な騎士道精神

ヘクターは、トロイアの王子であり、武勇に優れた将軍です。 彼は、トロイア軍の精神的支柱であり、その勇敢さと高潔な人格で、敵味方双方から尊敬を集めています。

責任感と自己犠牲

彼の行動は、責任感の強さと自己犠牲の精神によって、特徴づけられます。

彼は、トロイアを守るという使命感に燃え、自らの危険を顧みず、勇敢に戦います。

また、彼は、敵であるアキリーズに対しても、敬意を払い、正々堂々とした戦いを挑みます。

現代社会におけるヘクター

現代社会に置き換えると、ヘクターは、例えば、自らの信念に基づいて、社会貢献活動に取り組むリーダー、あるいは、弱い立場の人々を守るために戦う弁護士の姿かもしれません。

彼は、正義感と勇気に溢れ、周囲の人々に、希望と inspiration(インスピレーション)を与える存在となるでしょう。

「トロイラスとクレシダ」: 人間の本質を問う

『トロイラスとクレシダ』は、戦争という極限状況の中で、人間の理想現実美徳悪徳、そして、英雄虚像真実を、シニカルな視点から描き出した作品です。

シェイクスピアは、登場人物たちの複雑な心理描写を通して、人間の本質を鋭く問いかけ、私たちに、戦争名誉裏切り、そして勝利敗北意味を、深く考えさせてくれます。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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