オズの魔法使いの時代背景
1900年刊行。ボームが目指したのは、ヨーロッパの古い童話とは違う「アメリカ独自のおとぎ話」だった。なぜこの物語がアメリカの国民的童話となったのかを読み解く。
「アメリカ独自のおとぎ話」を作ろうとした
作者ボームは、本書のはしがきで、自分の狙いを、はっきりと述べている。彼は、グリム童話やアンデルセン童話のような、ヨーロッパの古い物語とは違う、新しいおとぎ話を作ろうとした。【解釈】従来のヨーロッパの童話には、恐ろしい教訓や、残酷な場面、道徳的な説教が、しばしば含まれていた。ボームは、そうした要素を排し、子どもが純粋に楽しめる、明るく、不思議で、心躍る物語を目指した。そして、その舞台を、ヨーロッパの古城や森ではなく、アメリカの大地(カンザスの大平原)から始まる物語にした。竜巻、とうもろこし畑のかかし、ブリキの木こりといった、アメリカの風土や、産業社会の事物が、おとぎ話の中に取り込まれている。古いヨーロッパの伝統に頼らない、アメリカ生まれの、現代的なファンタジー——それが、ボームの新しい試みだった。
明るく前向きな「アメリカの精神」
「オズの魔法使い」が、アメリカの国民的童話として愛されてきた背景には、この物語が、アメリカ的な精神を、明るく体現していることがある。【解釈】自分の運命は、偉大な誰かや、古い権威に頼るのではなく、自分自身の力で切り開く。求めるものは、すでに自分の中にある。誰もが、知恵も、心も、勇気も、潜在的に持っている。こうした、個人の力を信じ、前向きに自己を実現していく精神は、アメリカが大切にしてきた価値観と、深く響き合う。身分や生まれではなく、本人の中にある力こそが大切だ、というこの物語のメッセージは、新しい国アメリカの、楽天的で民主的な気風そのものだ。だからこの物語は、単なる楽しいファンタジーであるだけでなく、アメリカという国の自己像を、優しく映し出す鏡にもなっている。
発見: なぜ世代を超えて愛され続けるのか
「オズの魔法使い」が、刊行から百二十年以上を経ても、本として、また数々の映画や舞台として、世界中で愛され続けているのはなぜか。【解釈】それは、この物語が、子どもを楽しませる魅力的な冒険でありながら、誰の人生にも通じる、深い真実を語っているからだ。私たちは皆、自分には何かが足りない、と感じることがある。もっと賢ければ、もっと優しければ、もっと勇気があれば、と。そして、その足りないものを、外のどこかに、偉大な誰かのもとに、求めようとする。だが、この物語は、優しく教えてくれる。あなたが求めているものは、実は、最初からあなたの中にある、と。かかしも、木こりも、ライオンも、ドロシーも、長い旅の果てに、自分自身がすでに持っていたものの価値に気づく。この、自己発見の喜びは、子どもにとっては希望に満ちた発見として、大人にとっては、自分を信じることの大切さを思い出させる励ましとして、響く。色あせない冒険の楽しさと、生涯を支える普遍的なメッセージ。その両方を兼ね備えているからこそ、エメラルドの都への旅は、いつの時代の読者をも、わくわくさせ、そして優しく勇気づけてくれるのである。
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