ダンテスの復讐はどのように組み立てられているか

モンテ・クリスト伯(アレクサンドル・デュマ)の深掘り

ただ敵を殺すのではなく、相手を内側から崩壊させていくダンテスの復讐。その緻密な構造が、この物語を比類なき復讐譚にしている。復讐の仕掛けを読み解く。

発見1: 復讐は「相手自身の罪」によって遂げられる

モンテ・クリスト伯となったダンテスの復讐は、敵を直接手にかけるような、単純なものではない。彼は、自分を陥れた者たちが、その後の人生で築き上げた地位、富、家庭、名誉を、彼ら自身の過去の罪や、隠された秘密によって、内側から崩壊させていく。【解釈】たとえば、ある敵は、過去に犯した裏切りや犯罪が暴かれることで、社会的に破滅する。別の敵は、自らの欲望や罪が、家庭の崩壊を招く。ダンテスは、相手を破滅させる『材料』を、相手自身の罪の中から掘り起こす。つまり、彼らは、ダンテスに殺されるのではなく、自分自身の過去の悪に、自分で滅ぼされる。この『相手の罪を、相手に返す』という復讐の構造が、ダンテスの復讐を、単なる暴力ではなく、まるで因果応報の裁きのように見せている。

発見2: 莫大な富と知識が「神のような力」を与える

ダンテスの復讐を可能にしているのは、彼が獄中で得た、二つの力だ。一つは、モンテ・クリスト島の、無尽蔵とも言える莫大な財宝。もう一つは、老司祭ファリアから授けられた、あらゆる学問と、人間心理への深い洞察だ。【解釈】この、ほとんど無限の富と、卓越した知性によって、ダンテスは、人間業を超えた力を手に入れる。彼は、人を意のままに動かし、情報を操り、何年もかけて緻密な罠を張りめぐらせる。彼の前では、敵たちは、知らぬ間に運命を操られる、無力な駒のようだ。この、人智を超えた力が、ダンテスに『自分は神の代理人だ』という自負を与える。彼は、天に代わって、悪を裁いていると信じる。物語の前半の爽快さは、理不尽に奪われた者が、圧倒的な力を得て、悪を裁いていく、その痛快さにある。

発見3: 緻密さゆえに「巻き込まれる無実の者」が出る

だが、ダンテスの復讐が緻密で、徹底しているがゆえに、思わぬ事態が起きる。彼の復讐は、敵本人だけでなく、その家族や、罪のない者たちまでをも、巻き込んでしまうのだ。【解釈】敵を破滅させる過程で、その子どもや、無関係な人々が、傷つき、命を落とすことさえある。ダンテスは、自分を『公正な裁き手』だと信じていた。だが、彼の復讐は、神の裁きのような完璧な公正さを保てない。無実の者を巻き込んだとき、彼は初めて、自分が神ではなく、ただ恨みに動かされる一人の人間にすぎないことに気づき、動揺する。ここから、物語は、単純な復讐譚から、復讐そのものの是非を問う、深い物語へと転じていく。緻密に組み立てられた復讐の構造が、その完璧さゆえに、かえって、人間が人間を裁くことの限界と危うさを、浮かび上がらせるのである。

あわせて読む

原文を読むには

原文を無料で読めます。The Count of Monte Cristo(Project Gutenberg掲載の英語訳)