ウェルテルはなぜ自殺するのか
失恋した若者は無数にいるが、皆が死ぬわけではない。ウェルテルの死を「失恋のせい」で片づけると、この小説が新しく持ち込んだものを見落とす。彼を死へ追いやった本当の力を解く。
発見1: 彼を殺したのは失恋ではなく、「感情を抑えられない自分」と「抑えろと言う社会」の衝突である
ウェルテルの苦しみは、ロッテが手に入らないことだけではない。彼は、自分の燃え上がる感情を理性で抑えることが、どうしてもできない。一方、彼を取り巻く社会(婚約者アルベルト、宮廷、世間)は、感情を律し、分をわきまえ、理性的に生きることを要求する。【解釈】彼は二つの世界の板挟みで死ぬ。感情を殺して社会に従えば生き延びられるが、それは彼にとって「本当の自分」を殺すことだ。感情こそが生の真実だと信じる彼には、感情を抑えて生きることは、生きながら死ぬことに等しい。だから彼は、社会に合わせて自分を殺すのではなく、自分の感情に殉じる道を選ぶ。
発見2: アルベルトが「いい人」であることが、悲劇を逃げ場のないものにする
もし婚約者アルベルトが悪人なら、話は単純だった。ウェルテルは彼を倒し、ロッテを奪う物語になれた。だがアルベルトは誠実で、理性的で、非の打ちどころのない「正しい大人」だ。【解釈】これがウェルテルから出口を奪う。憎むべき相手がいないから、怒りも復讐もできない。彼の敵は特定の人間ではなく、「理性的に正しく生きる」という生き方そのものなのだ。アルベルトを憎めない以上、ウェルテルの戦いは外に向けられず、すべて自分の内側に折り返してくる。逃げ場のない感情は、最後に自分自身へ向かうしかない。
発見3: 借りたピストルが象徴する、社会への最後の問いかけ
ウェルテルが自殺に使うピストルは、よりによって婚約者アルベルトから借りたものだ。この細部は偶然ではない。【解釈】感情の人ウェルテルが、理性の人アルベルトの道具で死ぬ——これは、彼の死が単なる私的な絶望ではなく、二つの生き方の対決の結末であることを示している。理性の世界の道具によって、感情の人間が滅ぼされる。ウェルテルの自死は、敗北であると同時に、「あなたたちの正しい世界では、私のような人間は生きられないのか」という、社会への最後の無言の問いかけでもある。だからこの死は、読者に「彼が間違っていた」とは思わせず、むしろ社会の側を問い返させる力を持った。
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