オデュッセイアの時代背景

オデュッセイア(ホメロス)の深掘り

『イリアス』が戦争を、『オデュッセイア』が帰還を描くのはなぜか。古代ギリシャ人にとって「海」と「異邦」が何を意味したかを知ると、この帰郷物語の切実さが見えてくる。

古代ギリシャ人にとって、海は未知と危険の世界だった

「オデュッセイア」の舞台の多くは、海と、その先の未知の島々だ。古代ギリシャ人は海洋民族だったが、当時の航海は命がけで、海の向こうは怪物や魔物が棲むとされる、未知と危険に満ちた領域だった。【解釈】オデュッセウスが旅する島々——巨人の島、魔女の島、死者の国——は、ギリシャ人にとっての「世界の果て」の想像力そのものだ。海へ漕ぎ出すことは、既知の秩序ある世界から、無秩序で危険な未知へと踏み出すことだった。だからこの帰郷物語は、単なる冒険ではなく、未知の世界に投げ出された人間が、いかにして知恵と忍耐で既知の世界(故郷)へ戻ってくるか、という、当時の人々の根源的な不安と希望を映している。

「客をもてなす掟」が物語の善悪を分ける

この作品では、見知らぬ旅人をどう扱うかが、繰り返し問われる。旅人を歓待する者は善とされ、旅人に危害を加える者(オデュッセウスを食おうとした巨人キュクロプスなど)は悪とされる。【解釈】これは、当時のギリシャ社会の「客人歓待(クセニア)」という神聖な掟を反映している。宿も保証もない時代、見知らぬ土地を旅する者にとって、訪れた家でもてなされるかどうかは生死に関わった。だから、旅人をもてなすことは神々が命じる聖なる義務とされた。オデュッセウスの旅が試すのは、彼の知恵だけでなく、各地の人々がこの掟を守るかどうかでもある。物語の善悪の基準が「客をもてなすか」にあることは、人と人がどう助け合うべきかという、社会の基本倫理が、すでにこの古い物語に刻まれていることを示している。

発見: 「耐えて帰る」物語が、あらゆる帰郷譚の原型になった

「オデュッセイア」は、苦難の旅の果てに故郷へ帰り着くという物語の、西洋における原型である。【解釈】長い不在、数々の試練、変装しての帰還、待ち続けた家族との再会——この構造は、後の無数の物語に受け継がれた。戦争から帰る兵士の物語、長い旅から戻る冒険者の物語、そして、苦労の末に「自分の居場所」へたどり着くあらゆる物語が、遠くこの叙事詩を祖先に持つ。なぜこの構造が、三千年も繰り返されてきたのか。それは、「どこかへ行って、試され、変わって、帰ってくる」というオデュッセウスの旅の形が、人生そのものの形だからだ。人は皆、生まれ育った場所を離れ、世界の試練にもまれ、何かを失い何かを得て、自分の本当の居場所を探す。オデュッセウスの帰郷は、その普遍的な人生の旅の、最も古く、最も完成された地図なのである。

あわせて読む

原文を読むには

原文を無料で読めます。The Odyssey(Project Gutenberg掲載の英訳)