画: アリ・シェフェール「ファウストとマルガレーテ」ファウスト
一言での本質
あらゆる学問を究めてなお満たされない老学者が、悪魔と契約を結び、若さと快楽と世界のすべてを手に入れようとする——だがこれは堕落の物語ではない。「人間は、満足して立ち止まった瞬間に終わる」という、努力し求め続けることそのものを救済とみなす、壮大な人間賛歌である。
この作品の背景
「ファウスト」は二部からなる長大な劇詩で、ゲーテが生涯をかけて書き継ぎ、彼の死の直前に完成した。主人公ファウストは、哲学・法学・医学・神学とあらゆる学問を究めた老学者だが、それでも世界の本質に到達できないことに絶望している。
そこへ悪魔メフィストフェレスが現れ、契約を持ちかける。この世でファウストの望みを何でも叶えよう、その代わり、もしファウストが何かに心から満足し『時よ止まれ、お前は美しい』と願った瞬間、彼の魂をもらう、と。ファウストは契約に応じ、若さを取り戻し、純真な娘グレートヒェンとの悲恋、そして第二部では権力や美や事業など、人間のあらゆる経験を渡り歩いていく。
物語の構造
- 絶望あらゆる学問を究めた老学者ファウストは、知では世界の核心に届かないと悟り、絶望して死すら考える。
- 契約悪魔メフィストフェレスが現れ、契約を結ぶ。「時よ止まれ」と満足を願った瞬間、魂を渡す——その賭けにファウストは応じる。
- グレートヒェンの悲劇若さを得たファウストは純真な娘グレートヒェンと恋に落ちるが、その愛は彼女を破滅させる。快楽の代償が示される。
- 世界遍歴第二部でファウストは、宮廷の権力、古代の美、巨大な事業など、人間の経験のすべてを渡り歩いていく。
- 救済最後、土地を干拓し人々のために働くことに意義を見出したファウストは満足を口にして死ぬ。だが彼の魂は、絶えず求め続けた者として、天に救い上げられる。
現代の働く人への示唆 解釈
ファウストと悪魔の契約は、普通の「魂を売る」話と決定的に違う。賭けの条件は「ファウストが何かに満足して『時よ止まれ』と願ったら負け」だ。つまりこの物語は、満足し立ち止まることを敗北、求め続けることを生とみなす。ゲーテにとって人間の本質は、達成ではなく、絶えず先へ向かう運動そのものにある。
悪魔メフィストフェレスは、単純な悪ではない。【解釈】彼は自らを「常に悪を欲しながら、常に善を生む力の一部」と名乗る。彼はファウストを誘惑し堕落させようとするが、その誘惑がかえってファウストを動かし、成長させ続ける。悪は、人間を立ち止まらせず前へ駆り立てる、逆説的なエンジンとして働く。停滞こそが悪で、たとえ過ちを伴っても動き続けることが善——これがゲーテの倫理だ。
結末でファウストは救われるが、それは彼が善人だったからではない。【解釈】彼はグレートヒェンを破滅させ、多くの過ちを犯した。それでも救われるのは、彼が最後まで満足せず、求め、努力し続けたからだ。天使たちは歌う——「絶えず努め励む者を、我らは救うことができる」。過ちの有無ではなく、求め続けたかどうかが救済の基準になる。失敗を恐れて立ち止まるより、過ちながらも前へ進むことを、ゲーテは肯定した。
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