ルーベンス『キリストの降架』(アントワープ大聖堂)画: ピーテル・パウル・ルーベンス『キリストの降架』(アントワープ大聖堂蔵)

フランダースの犬

ウィーダ(マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー)(1839-1908)。イギリスの作家。本作は、ベルギーのフランダース地方を舞台にした短編で、とりわけ日本で深く愛され、繰り返し映像化されてきた。

一言での本質

ベルギーのフランダース地方。貧しくも心優しい少年ネロは、老いた祖父と、捨てられていた犬パトラッシュと、つましく暮らしている。絵の才能に恵まれたネロの夢は、大聖堂に飾られた、巨匠ルーベンスの絵を、一目見ることだった。だが、貧しさと、人々の無理解と、不運が重なり、祖父を失い、家を追われたネロは、すべてを失う。クリスマスの夜、ついに憧れのルーベンスの絵の前にたどり着いたネロは、忠実なパトラッシュと寄り添いながら、静かに天へと召されていく——。純粋な魂が報われない世の理不尽と、それでも失われない愛と尊厳を描いた、哀切な物語である。

この作品の背景

「フランダースの犬」は1872年に発表された、ウィーダによる短編小説だ。舞台は、19世紀のベルギー、アントワープ近郊のフランダース地方の村。主人公は、ネロという、身寄りのない貧しい少年だ。両親を亡くした彼は、老いた祖父ジェハンと二人、牛乳を町まで運んで売る仕事で、慎ましく暮らしている。

ある日、ネロと祖父は、荷車引きにこき使われ、道端に捨てられて死にかけていた一匹の犬を見つけ、助けて、家族として迎える。その犬パトラッシュは、回復すると、恩を忘れず、牛乳の荷車を引いて、ネロたちの仕事を助けるようになる。ネロには、ひそかな夢があった。彼は絵の才能に恵まれており、いつか立派な絵描きになること、そして何より、アントワープの大聖堂に飾られているという、敬愛する巨匠ルーベンスの絵を、一目見ることを、心から願っていた。だが、その絵は、お金を払わなければ見ることができなかった。貧しいネロには、それすら叶わぬ夢だった。

物語の構造

  1. 貧しくも幸せな暮らし孤児ネロは、老いた祖父と、助けた犬パトラッシュと、つましくも心穏やかに暮らしていた。
  2. 絵への夢絵の才能を持つネロの夢は、立派な絵描きになり、大聖堂のルーベンスの絵を見ることだった。
  3. 重なる不運祖父の死、絵のコンクールでの落選、放火の濡れ衣。貧しさと無理解が、ネロを追いつめていく。
  4. すべての喪失家を追われ、すべてを失ったネロに、寄り添うのは、忠実な犬パトラッシュだけだった。
  5. 聖夜の昇天クリスマスの夜、憧れのルーベンスの絵の前で、ネロはパトラッシュと共に静かに天へ召される。

現代の働く人への示唆 解釈

この物語の悲しみの核心は、『純粋な魂が、報われずに滅びる』という理不尽だ。【解釈】ネロは、心優しく、正直で、絵の才能にも恵まれた、何一つ悪いところのない少年だ。彼は、ただ貧しいというだけで、夢を阻まれ、人々に誤解され、不運に見舞われ、最後にはすべてを失って死んでいく。善良であることは、彼を救わなかった。世界は、純粋な魂に対して、しばしば残酷で、無慈悲だ。良い人間が報われるとは限らない——この、童話にはふさわしくないほど厳しい現実を、この物語は、正面から描いている。

ネロとパトラッシュの絆が、絶望の中の唯一の救いだ。【解釈】祖父を失い、家を追われ、人々に見放されたネロのそばに、最後まで残ったのは、犬のパトラッシュだった。パトラッシュは、かつてネロたちに命を救われた恩を、決して忘れない。すべてを失ったネロに、パトラッシュは、ただ寄り添い続ける。人間社会の冷たさと、この一匹の犬の無償の忠誠が、鮮やかな対照をなす。世界がどれほど無慈悲でも、ここには、見返りを求めない、純粋な愛がある。最後の夜、二人が寄り添って一緒に天へ召される姿は、悲劇でありながら、その絆ゆえに、深く清らかな美しさをたたえている。

ルーベンスの絵は、ネロの『魂の救い』を象徴している。【解釈】ネロが命がけで一目見たいと願った、大聖堂のルーベンスの絵。それは、地上では決して報われなかった彼の魂が、最後に求めた、美と聖性の象徴だ。最期の夜、月明かりに照らされたその絵を、ついに見ることができたネロは、深い満足と幸福に包まれる。地上の幸福をすべて奪われた少年が、最後に、芸術の崇高な美に包まれて昇天する。それは、この世では報われなかった純粋な魂が、もっと高い次元で、安らぎと救いを得る姿として描かれている。

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原文を無料で読めます。A Dog of Flanders(Project Gutenberg掲載の英語原文)