ロング・ジョン・シルバーは善人か悪人か
少年に優しく接しながら、平然と人を殺す片足の海賊シルバー。彼が単純な悪役でないことが、この物語を古典にした。一人の人間の中に善と悪が同居する、その魅力と恐ろしさを読み解く。
発見1: シルバーは「優しさ」と「冷酷さ」を同時に持つ
ロング・ジョン・シルバーは、海賊の頭目でありながら、少年ジムに対しては、驚くほど優しい。陽気で、面倒見がよく、ジムを息子のように可愛がる。ジムだけでなく、船の誰からも好かれ、信頼される、魅力的な人物だ。【解釈】だが、その同じシルバーが、自分の計画の邪魔になる仲間を、冷たい目で、ためらいなく殺す。優しさは演技ではない——彼は本当にジムを気に入っている。だが、冷酷さもまた本物だ。普通の物語の悪役は、内も外も悪い。だがシルバーは違う。彼の中では、温かい人情と、ぞっとするような非情さが、矛盾なく同居している。この、割り切れなさこそが、シルバーという人物を、百四十年経っても忘れられない存在にしている。
発見2: 善悪では割り切れないからこそ「人間」らしい
なぜ、シルバーはこれほど魅力的なのか。それは、彼が、現実の人間に近いからだ。【解釈】物語に出てくる悪役は、たいてい、分かりやすく悪い。だから、安心して憎める。だが現実の人間は、そんなに単純ではない。優しい人が、ある場面では残酷になり、悪事を働く人が、別の場面では深い情を見せる。一人の人間の中に、善も悪も、勇気も卑怯も、入り混じっている。シルバーは、その人間の複雑さを、一身に体現した人物だ。彼を『悪人』と切り捨てることも、『善人』と信じることもできない。その曖昧さに、読者は戸惑いながら、惹きつけられる。スティーヴンソンは、勧善懲悪の単純な物語を拒み、人間という存在の、割り切れない奥行きを、海賊の姿を借りて描いてみせた。
発見3: シルバーは罰せられず去る——道徳的に「裁かれない」
物語の結末で、シルバーは、捕らえられて罰を受けることもなく、宝の一部をくすねて、こっそり姿を消してしまう。悪事を働いた海賊が、はっきりと裁かれないまま、逃げおおせるのだ。【解釈】これは、当時の道徳的な物語の約束事——悪は必ず罰せられる——を、あえて破っている。スティーヴンソンは、シルバーをきれいに断罪して、読者を安心させることをしなかった。それは、現実の世界が、そんなに公平に、善悪を裁いてはくれないからだ。そして、ジム自身も、シルバーが逃げたことを、どこかほっとして受け止めている。これほど恐ろしい男なのに、彼が罰せられずに去ることを、ジムは——そして読者も——心のどこかで望んでしまう。憎みきれず、嫌いきれない。この、道徳の枠に収まらない後味こそ、シルバーという人物の、最も人間的なところだ。善悪では裁けない人間がいる、という不思議な真実を、この結末は静かに残していくのである。
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