なぜオセロは無実の妻を疑い殺すのか

オセロ(ウィリアム・シェイクスピア)の深掘り

オセロは愚かな男ではない。有能で、勇敢で、誰からも尊敬される将軍だ。その彼が、なぜ証拠もないのに妻を疑い、殺してしまうのか。彼の弱点は、欠点ではなく美点の中にあった。

発見1: 彼を破滅させたのは「全面的に信じる力」である

オセロの最大の特徴は、人を疑わず全面的に信じることだ。彼は妻デズデモーナを信じ、そして「正直者イアーゴー」を完全に信じていた。【解釈】皮肉なのは、この信じる力の強さが、そのまま破滅の原因になることだ。いったんイアーゴーという信頼する相手から毒が注がれると、その毒もまた全面的に信じてしまう。中途半端にしか人を信じない人間なら、妻も部下も等しく疑い、慎重に確かめただろう。だがオセロは、信じる相手のことは徹底的に信じる。だから、信頼するイアーゴーの言葉を、確かめもせず真実として受け入れた。彼の悲劇は、人を信じすぎる誠実さが、操作する者にとって最も付け込みやすい入口になる、という残酷な事実から生まれる。

発見2: 信頼と猜疑は、同じ心の力の表と裏である

オセロは、妻を深く愛し信じていたからこそ、その信頼が裏切られたと思った瞬間、最も激しく疑い憎む。彼の嫉妬の激しさは、彼の愛の深さに正確に比例している。【解釈】ここにこの悲劇の心理的な核心がある。深く信じられる者ほど、その信頼が崩れたとき、深く疑い、激しく憎む。愛と嫉妬は別の感情ではなく、同じ強い感情の方向が反転したものだ。だからイアーゴーは、オセロの愛そのものを武器にする。彼はオセロの愛を消そうとはしない。愛を、嫉妬へと反転させればいいのだ。最も深く愛する者が、最も深く疑いうる——この心の力学を知り尽くしていたからこそ、イアーゴーはわずかな囁きで、最大の愛を最大の憎しみへと裏返すことができた。

発見3: 異民族という孤独が、彼の不安を増幅する

オセロは、ヴェネツィア社会の中でムーア人(異民族)という立場にある。実力で高い地位を得てはいるが、彼は心のどこかで、自分がこの社会の本当の一員ではないという不安を抱えている。【解釈】イアーゴーは、この弱点を巧妙に突く。彼はオセロに、「ヴェネツィアの女(デズデモーナ)が、よそ者のあなたより、同郷のキャシオーを選ぶのは自然なことだ」とほのめかす。自分は異質な存在だ、本当には受け入れられていないかもしれない——オセロの内に潜むこの不安が、妻への疑いを増幅する。彼が妻を疑うのは、妻を信じられないからではなく、根本のところで自分自身を信じきれないからだ。よそ者としての孤独と不安が、彼の心に、イアーゴーの毒が染み込む隙間を作っていた。最も外見上は強い人間が、内に抱えた疎外感ゆえに、最も脆くなる——オセロの悲劇は、異質な者として生きることの孤独の物語でもある。

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