不思議の国のアリスは何を描いているのか

不思議の国のアリス(ルイス・キャロル)の深掘り

「子ども向けの楽しいナンセンス」という説明は、半分しか正しくない。作者が数学者だったことを補助線に引くと、この物語が何の悪夢を描いているのかが、くっきりと見えてくる。

発見1: これは数学者が描いた「規則が壊れた世界」である

作者チャールズ・ドジソンは、オックスフォードで論理学を講じた数学者だった。数学とは、前提を置けば結論が必然的に導かれる、規則の最も純粋な体系である。【解釈】不思議の国は、その規則がいたるところで壊れた世界だ。前提から結論が導けず(「なぜカラスは書き物机に似ている?」に答えはない)、同じ言葉が違う意味で滑り、量や順序の保存が効かない。これは無秩序ではなく、規則を信奉する人間が想像しうる最悪の悪夢——規則が信用できなくなった世界——である。アリスが感じる絶え間ない苛立ちは、論理の通じない相手と話し続ける者の苛立ちそのものだ。

発見2: いちばん怖いのは怪物ではなく、まじめな顔の理不尽である

不思議の国の住人は、誰一人として悪意ある怪物ではない。帽子屋も女王も猫も、みな大まじめに、自信たっぷりに、筋の通らないことを言う。【解釈】恐ろしいのは、彼らが「自分は正しい」と確信していることだ。ハートの女王は証拠を聞く前に判決を下し、それを当然と思っている。理不尽が、理不尽だと気づかずに、堂々と運用されている。これは子どもが大人の世界に感じる感覚の正確な再現である——大人たちは確信に満ちて、しかし子どもには筋が通らないことを次々に要求してくる。怪物より、確信した理不尽のほうがずっと怖い。

発見3: アリスの武器は、ただ一つ「常識を手放さないこと」だった

混乱の中で、アリスは何度も自分に言い聞かせ、礼儀を保ち、筋を通そうとし続ける。周りが狂っていく中で、彼女だけが「それはおかしい」と感じ続ける。【解釈】この物語の本当の主人公性は、冒険でも勇気でもなく、規則の壊れた世界で自分の常識を手放さなかったことにある。最後にトランプの群れへ「あなたたちなんてただのカードじゃない!」と言い放つ瞬間、彼女は理不尽の権威を否認する。狂った世界で正気を保つとは、相手の理不尽を「理不尽だ」と名指しし続けることだ——アリスが子どもながらにやってのけたのは、この最も難しい抵抗だった。

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本作はパブリックドメイン(著作権保護期間満了)であり、原文を無料で読めます。Alice's Adventures in Wonderland(Project Gutenberg掲載の英語原文)