## ジョイスの若い芸術家の肖像の選択
###
言語の選択
ジョイスは本書において、非常に意識的に洗練された言語を用いています。それは単なるコミュニケーションの道具ではなく、主人公スティーヴン・ディーダラスの成長や、芸術家としての自我の形成と密接に関係しています。
幼少期の描写では、単純で感覚的な言葉が用いられ、スティーヴンの世界に対する未熟な理解を反映しています。成長するにつれて、彼の使う言葉も複雑化し、抽象的な概念を表現できるようになります。特に、彼が芸術について深く考えるようになると、言語はより詩的で象徴的なものへと変化します。
###
宗教的イメージの選択
カトリックの教義と儀式のイメージが、スティーヴンの成長の過程と密接に絡めとられています。幼い頃は、神や地獄といった概念が、彼に純粋な恐怖と罪悪感を植え付けます。しかし、成長するにつれて、彼は宗教的な教義に疑問を抱き始め、自由な精神を求めていくことになります。
聖書の引用や典礼の場面は、スティーヴンの内的葛藤を象徴的に描き出すために効果的に用いられています。特に、彼が神への信仰を捨て、芸術家としての道を歩む決意をする場面は、宗教的イメージの対比によって鮮やかに表現されています。
###
神話的イメージの選択
ギリシャ神話やケルト神話のイメージは、スティーヴンの芸術観やアイデンティティの模索と深く関わっています。彼は、ダンテやバイロンといった過去の芸術家の作品から影響を受け、自身の芸術的理想を追求していきます。
特に、ギリシャ神話のダイダロスとイカロスの物語は、スティーヴンの芸術家としての野心と、社会の束縛から逃れたいという願望を象徴しています。彼は、鳥のように自由に空を飛ぶイカロスに憧れを抱きながらも、その飛行が破滅へと繋がったことを意識しています。