## クリエイティブな人のためのプリゴジン「混沌からの秩序」
「散逸構造」と創造性のメカニズム
イリヤ・プリゴジンは、非平衡熱力学という分野を開拓し、ノーベル化学賞を受賞した科学者です。「混沌からの秩序」は、彼の研究の中でも特に、生命現象や社会現象といった複雑なシステムの振る舞いを理解する上で重要な概念である「散逸構造」について分かりやすく解説した書籍です。散逸構造とは、エネルギーや物質の流れが存在する非平衡な状態において、自発的に秩序や構造を生み出すシステムのことを指します。プリゴジンは、生命体や社会といった複雑なシステムは、外部とのエネルギーや情報のやり取りを通して、常に変化し、進化していく散逸構造であると捉えました。
一見するとランダムで予測不可能な混沌とした状態の中から、ある条件下において、新たな秩序や構造が創発されるという散逸構造の考え方は、クリエイティブなプロセスと深い関連性を持っています。例えば、芸術家の創作活動においては、混沌とした思考や試行錯誤の過程を経て、突如として斬新なアイデアや作品が生まれることがあります。これは、まさにプリゴジンの言う散逸構造における秩序の創発と言えるでしょう。また、イノベーションや社会変革といったプロセスも、既存の秩序が崩壊し、混沌とした状態を経て、新たな秩序が形成されるという散逸構造的な側面を持っています。
「分岐点」と選択による創造
プリゴジンは、散逸構造が進化していく過程において、「分岐点」という重要な概念を提唱しました。分岐点とは、システムが複数の可能性の中から一つの道を選択し、新たな状態へと移行するポイントのことです。例えば、生物の進化においては、環境の変化や遺伝子の突然変異などによって分岐点が訪れ、新たな種が誕生することがあります。社会においても、技術革新や政治的な変革などによって分岐点が訪れ、社会構造や価値観が大きく変化することがあります。
分岐点における選択は、その後のシステムの進化に大きな影響を与えます。どの道を選ぶかによって、システムは全く異なる未来へと進んでいくことになります。この選択という行為は、まさにクリエイティブな行為そのものと言えるでしょう。芸術家は、無数の表現方法の中から、自らの感性に基づいて選択を行い、作品を創造します。起業家は、様々なビジネスモデルの中から、将来性を見据えて選択を行い、新たな事業を創出します。
「混沌からの秩序」を読むことで、クリエイティブな人は、自身の創造的なプロセスを、散逸構造や分岐点といった科学的な概念を通して客観的に理解することができます。そして、混沌とした状況の中に潜む可能性を見出し、自らの選択によって新たな秩序を創造していくためのヒントを得ることができるでしょう。
「時間」の非可逆性と創造活動
プリゴジンは、「時間」の非可逆性にも着目しました。古典物理学では、時間は可逆的なものとして扱われてきました。しかし、プリゴジンは、散逸構造においては、時間は非可逆的に進んでいくものであり、過去の状態に戻ることはできないことを示しました。これは、生命現象や社会現象といった複雑なシステムは、常に変化し、進化し続けるものであり、一度過ぎ去った時間は二度と戻らないことを意味します。
この時間の非可逆性は、クリエイティブな活動にも深く関わっています。例えば、芸術家は、過去の作品を模倣することはできますが、全く同じ作品を再び創造することはできません。それは、時間とともに、芸術家自身の内面や周囲の環境が変化していくからです。創造活動とは、常に新しいものを生み出す行為であり、過去の繰り返しではありません。
「混沌からの秩序」を読むことで、クリエイティブな人は、時間の非可逆性という概念を理解し、自身の創造活動が、一方向に進む時間の中で行われる、一回限りのものであることを認識することができます。そして、その限られた時間の中で、最大限の創造性を発揮しようとする意欲を高めることができるでしょう。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。