## シェイクスピアのシンベリンのテクスト
劇のジャンル
劇のジャンルは、これまで様々な議論の的となってきました。
「シンベリン」は、ファースト・フォリオにおいては「悲劇」に分類されていますが、劇中に含まれるロマンス、コメディ、冒険の要素から、批評家の中にはこの分類に異議を唱える人もいます。
実際、「シンベリン」は複数のジャンル的慣習を融合させており、トラジコメディと呼ぶのが最も適切かもしれません。トラジコメディとは、悲劇と喜劇の要素を組み合わせ、多くの場合、登場人物が劇的な出来事や危機に直面しながらも、最終的には和解とハッピーエンドを迎えるというジャンルです。
劇の構成
5幕構成の「シンベリン」は、複数の筋書きが複雑に絡み合い、急速な場面転換や意外な展開が特徴です。
この劇は、ブリテン宮廷におけるシンベリン王と、妻であるイノジェン、そして彼女の貞操を疑う邪悪な継母である王妃との対立を中心に展開します。
一方、王妃の息子であるクロテンと、追放された貴族であるベラリウスの息子たち（ギデリウスとアーヴィラガス）の対立も描かれています。
これらの筋書きは、ウェールズの荒涼とした環境を舞台に展開され、最終的には、クライマックスにおける戦いと、その後の驚くべき暴露と和解の場面で交差します。
主要なテーマ
「シンベリン」には、貞節、嫉妬、欺瞞、贖罪といったテーマが貫かれています。
イノジェンの揺るぎない貞節は、夫であるシンベリン王や狡猾なイアキモとの策略によって繰り返し試されます。
シンベリン王の嫉妬とだまされやすい性格が、物語の多くの葛藤を引き起こします。
欺瞞は、イアキモの策略や登場人物が用いる変装を通して顕著に描かれています。
最終的には、自己認識と後悔を通して贖罪がもたらされ、劇の終わりには許しと和解の可能性が示唆されます。
文体とイメージ
「シンベリン」は、シェイクスピアの劇作術に見られる、詩と散文の巧みな使用が特徴です。
登場人物の身分や感情の起伏に応じて、高尚な詩句から日常的な散文まで、様々な文体が用いられています。
また、イメージや象徴表現を効果的に用いることで、登場人物やテーマを表現しています。
例えば、指輪や剣などの重要な象徴は、貞節、名誉、男性的なアイデンティティなどの概念を表しています。
さらに、「シンベリン」には、劇の世界観を豊かにする、自然、神話、夢に関するイメージが散りばめられています。
批評的解釈
「シンベリン」は、その成立以来、批評家たちの間で様々な解釈がなされてきました。
初期の批評家は、劇の構成の複雑さや、悲劇と喜劇の要素の混在に注目していました。
しかし、20世紀に入ると、「シンベリン」は、貞節、嫉妬、権力、人間の条件といったテーマを探求した、複雑で報われる作品として評価されるようになりました。
フェミニスト批評家は、イノジェンのキャラクター、特に家父長制社会における女性の役割や女性に対する暴力の描写について分析してきました。
また、ポストコロニアル批評家は、劇におけるブリテンとローマの関係や、植民地支配と征服の問題を掘り下げました。
上演の歴史と翻案
初演以来、「シンベリン」は、舞台とスクリーンの両方で、数多くの解釈や翻案がなされてきました。
劇の多様な舞台設定と魅力的な登場人物は、想像力豊かな舞台美術や演出を可能にし、様々な解釈を生み出してきました。
著名な舞台作品としては、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる演出や、ケネス・ブラナー演出によるナショナル・シアターの舞台などがあります。
さらに、「シンベリン」は、映画やテレビにも翻案され、現代の観客にその物語を届けています。