## J・S・ミルの経済学原理を読む
ミルの経済学原理を読む意義
ジョン・スチュアート・ミルは、19世紀イギリスを代表する哲学者、経済学者、政治思想家です。彼の主著『経済学原理』(Principles of Political Economy) は、1848年の初版以来、古典経済学の代表的な教科書として、そして社会思想史上の記念碑的な著作として、広く読まれ続けてきました。
本書の内容と構成
『経済学原理』は、全5巻から成り、生産、分配、交換、社会の進歩に対する政府の役割、など経済学の広範なテーマを網羅しています。
* **第1巻 生産**: 労働、資本、土地といった生産要素の役割、分業、規模の経済性、人口論などを論じます。
* **第2巻 分配**: 賃金、利潤、地代といった分配の決定要因、富の分配における平等と効率の問題を扱います。
* **第3巻 交換**: 価値の理論、貨幣の役割、国際貿易、為替レートなどを取り上げます。
* **第4巻 社会の進歩に対する政府の役割**: 国家の経済活動への介入、課税の原則、貧困対策、教育政策などを論じます。
* **第5巻 社会の進歩に関する考察**: 社会主義、共産主義といった当時の社会思想を批判的に検討し、ミルの理想とする社会のあり方を提示します。
本書の特徴
ミルの『経済学原理』は、古典派経済学の伝統を受け継ぎつつも、功利主義の立場から、社会正義や個人の自由を重視する視点を取り入れている点に大きな特徴があります。
* **功利主義に基づく経済学**: ミルは、ジェレミー・ベンサムの功利主義を継承し、「最大多数の最大幸福」を道徳の原則としました。経済政策においても、この原則に基づき、人々の幸福を最大化するように設計されるべきだと主張しました。
* **分配の重要性**: 古典派経済学では、生産が重視されがちでしたが、ミルは分配の重要性も強調しました。彼は、富の不平等な分配は、経済効率を低下させるだけでなく、社会不安を引き起こす要因となると考えました。
* **個人の自由の尊重**: ミルは、『自由論』(On Liberty) でも知られるように、個人の自由を非常に重視しました。経済活動においても、国家による過剰な介入は、個人の自由を阻害すると考え、自由競争の原則を支持しました。
現代における本書の意義
『経済学原理』は、150年以上も前に書かれた書物ですが、現代社会においても、その内容には学ぶべき点が多くあります。特に、グローバリゼーション、経済格差、環境問題といった現代社会の課題を考える上で、ミルの思想は重要な示唆を与えてくれるでしょう。