## J・S・ミルの経済学原理の技法
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帰納と演繹の混合
J・S・ミルは、経済現象の分析において、帰納法と演繹法を組み合わせた手法を用いています。
帰納法については、ミルの時代には経済統計が未発達であったため、歴史的な事例や観察に基づいた一般的命題を導き出すことに留まっています。
演繹法については、人間の行動原理に関するいくつかの前提を設定し、そこから論理的な推論によって経済現象を説明しようとしました。具体的には、人間の利己心や快楽追求の傾向といった要素を前提としています。
しかし、ミルは演繹法の限界も認識していました。経済学が扱う人間の行動は複雑であり、単純な前提から現実を完全に説明することはできないと考えていました。
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抽象化
ミルは経済分析を行う上で、現実の複雑な経済現象を単純化するために抽象化を用いています。
具体的には、「経済人」という概念を導入し、人間の行動を利潤や効用の最大化を追求するものとして単純化しました。これは、経済現象の本質を見抜き、より明確な分析を行うために有効な手段でした。
しかし、ミルはこの抽象化が現実の完全な描写ではないことを認識していました。人間の行動は利己心だけでなく、道徳心や感情など、他の要因にも影響を受けることを認めています。
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静学分析と動態分析
ミルは経済分析において、静学分析と動態分析の両方を重視しました。
静学分析では、経済変数が一定であると仮定し、均衡状態における経済主体間の関係を分析します。これは、価格や供給量などの経済変数の相互依存関係を理解する上で重要な手法です。
一方、動態分析では、時間の経過とともに経済変数が変化する場合の経済現象を分析します。ミルは、技術進歩や人口増加などが経済成長に与える影響について考察しました。
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歴史的制度主義
ミルは、経済現象を分析する上で、歴史的・制度的要因を重視する歴史的制度主義の考え方を採用していました。
彼は、経済法則は普遍的なものではなく、特定の歴史的・制度的文脈の中で成立すると考えていました。それぞれの社会が持つ歴史や文化、制度が経済活動に影響を与えると認識していたのです。
例えば、彼は分配の法則は普遍的なものではなく、社会の制度や慣習によって変化すると主張しました。