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心理学×シェイクスピア:コリオレイナス

コリオレイナス: 誇りと復讐の悲劇、心理学が解き明かす英雄の孤独

シェイクスピアの晩年の傑作、『コリオレイナス』。ローマの英雄ケイアス・マーシアス・コリオレイナスは、その傑出した武勇で敵国ヴォルサイを打ち破りますが、民衆の支持を得られず、追放されてしまいます。復讐に燃える彼は、敵将タラス・オーフィディアスと手を組み、ローマに攻め入りますが、母ヴォラムニアの説得によって、祖国への攻撃を断念し、その代償として命を落とすのです。

これは、単なる戦争や政治の物語ではありません。シェイクスピアは、英雄コリオレイナスの誇り孤立愛国心復讐心、そして家族への愛という、複雑に絡み合う感情の葛藤を、繊細かつ力強く描き出しています。

今回は、現代心理学の分析ツールを用いて、登場人物たちの深層心理を紐解き、『コリオレイナス』という英雄の悲劇に隠された人間心理の真実を、新たな光で照らしていきましょう。

1. ケイアス・マーシアス・コリオレイナス: 誇りと怒り、融通の利かない英雄

コリオレイナスは、ローマの将軍であり、類稀な武勇と不屈の精神で、敵国ヴォルサイを打ち破る英雄です。

誇りと英雄主義

彼は、ローマの伝統的な価値観である名誉武勲を何よりも重んじ、そのために命を賭して戦うことを厭いません。 彼の勇気と戦闘能力は、まさにローマ軍の象徴であり、多くの兵士たちの尊敬を集めています。

しかし、彼は、同時に、傲慢融通が利かない性格でもあり、民衆の声に耳を傾けず、彼らの要求を軽蔑します。

これは、彼が、幼い頃から、英雄として育てられ、特権的な環境の中で生きてきたことと関係しているのかもしれません。 彼は、自分自身を、民衆とは異なる、特別な存在だと考えており、彼らと共感したり、理解したりすることが難しいのです。

怒りの感情と攻撃行動

民衆の反感を買ったコリオレイナスは、護民官の策略によって、ローマから追放されてしまいます。 彼は、裏切られた怒りから、復讐心を燃やし、敵国ヴォルサイに寝返り、ローマへの攻撃を開始します。

彼の行動は、「怒りの感情」が、どのように人間の行動に影響を与えるかを示す好例です。

怒りは、攻撃行動を引き起こす、強力な動機付けとなることがあります。

コリオレイナスの場合、ローマから追放されたという屈辱的な経験が、彼に制御不能な怒りを引き起こし、その怒りが、彼を破壊的な行動へと駆り立てていくのです。

現代社会に生きるコリオレイナス

現代社会に置き換えると、コリオレイナスは、例えば、卓越したスキルを持つプログラマー、あるいは、圧倒的な営業成績を誇るビジネスマンかもしれません。

彼は、自分の能力に絶対の自信を持ち、周囲の評価を気にしない孤高の存在です。 しかし、その傲慢な態度や、協調性の欠如が、周囲との摩擦を生み、組織の中で孤立してしまう可能性もあります。

2. ヴォラムニア: 息子を英雄へと駆り立てる母

ヴォラムニアは、コリオレイナスの母であり、彼を英雄として育て上げた、厳格支配的な女性です。

社会的学習理論と価値観の刷り込み

彼女は、ローマの伝統的な価値観である、名誉武勲を息子に教え込み、彼を、ローマの英雄にふさわしい人物として育て上げました。

彼女の教育方針は、「社会的学習理論」という心理学の理論で説明できます。 社会的学習理論は、人は、周りの人の行動を観察し、模倣することで、行動パターンを学習すると主張します。

ヴォラムニアは、自らが理想とするローマの英雄像を、コリオレイナスに教え込み、彼を、その理想像に近づけようとしました。

息子への期待と支配

しかし、彼女の過剰な期待支配は、コリオレイナスに、重圧葛藤をもたらし、彼の 自律性(自分で行動を決定し、責任を負う能力)の発達を阻害した可能性があります。

現代社会におけるヴォラムニア

現代社会に置き換えると、ヴォラムニアは、息子を医者にするために、幼い頃から、厳しい教育を施す母親かもしれません。

彼女は、息子に、高い学歴と社会的地位を獲得させたいという強い 願望を持っており、そのために、息子の自由個性を尊重することなく、自分の価値観を押し付けてしまう可能性があります。

3. タラス・オーフィディアス: 宿敵から協力者へ

タラス・オーフィディアスは、ヴォルサイの将軍であり、コリオレイナスの宿敵です。

ライバル関係と鏡映自己

二人は、互いに認め合うライバルであり、長年にわたって、戦場で激しく戦ってきました。

彼らの関係は、「鏡映自己」という社会心理学の概念で説明できます。 鏡映自己とは、私たちは、他者からどのように見られているかを想像することで、自分自身を認識するという考え方です。

コリオレイナスとオーフィディアスは、互いを、自らの強さと勇気を試すとして認識し、そのライバル関係を通して、自らのアイデンティティを確立してきました。

協力と裏切り

ローマから追放されたコリオレイナスは、オーフィディアスに助けを求め、二人は、ローマへの復讐のために、手を組みます。 しかし、彼らの協力関係は、脆く、互いへの 不信感が根底にあります。

現代社会におけるコリオレイナスとオーフィディアス

現代社会に置き換えると、彼らは、同じ業界で競い合う、ライバル企業の CEO かもしれません。

彼らは、互いに、相手の戦略や技術を研究し、競争を通して、自社の成長を促しています。 しかし、市場シェアや顧客獲得を巡る競争は激しく、時には、相手を出し抜くために、非倫理的な手段に訴えることもあるでしょう。

4. メニーニアス・アグリッパ: 言葉の力で民衆を動かす

メニーニアス・アグリッパは、コリオレイナスの友人であり、ローマの元老院議員です。

彼は、コリオレイナスと民衆の間の対立を解消しようと、雄弁な語り口で、民衆を説得しようと試みます。

説得とコミュニケーション

彼の行動は、「説得」という社会心理学の分野で研究されているコミュニケーションプロセスと関連づけて解釈できます。

説得とは、相手 attitudes(態度)や beliefs(信念)を変えることを目的としたコミュニケーションのことです。

メニーニアスは、論理的な argument(主張)と、感情に訴えかける話術を駆使して、民衆の心を動かそうとしますが、彼の努力は、 ultimately(最終的に)失敗に終わります。

現代社会におけるメニーニアス

現代社会に置き換えると、メニーニアスは、例えば、企業の広報担当者、あるいは、政治家のスピーチライターかもしれません。

彼は、巧みな話術で、人々の心を掴み、自らの主張を理解させ、支持を得ようとしますが、時には、その言葉が、現実を歪曲したり、人々を欺いたりするために利用されることもあるでしょう。

コリオレイナス: 英雄の孤独と自己認識の葛藤

『コリオレイナス』は、英雄の孤独、そして、自己認識の葛藤を描いた作品です。登場人物たちは、それぞれの立場や信念、そして、経験に基づいて、様々な行動や選択をしていきます。

私たちは、現代心理学の知見を用いることで、彼らの行動や感情を深く理解し、この作品に込められたシェイクスピアのメッセージを、より鮮明に受け取ることができるでしょう。

コリオレイナスの悲劇は、私たちに、自己他者個人社会との関係性について、深く考えさせるきっかけを与えてくれます。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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