ヴォルテールの哲学書簡の話法
観察と体験に基づく語り口
ヴォルテールの『哲学書簡』は、彼自身がイギリスに滞在した経験に基づいて、イギリスの社会制度、宗教、哲学、科学などをフランスに向けて紹介するという体裁を取っています。
彼は、具体的なエピソードや人物を交えながら、イギリス社会を生き生きと描写し、読者に語りかけるような親しみやすい文体で、自らの意見を展開していきます。
例えば、第5手紙では、クエーカー教徒の礼拝の様子を具体的に描写し、その簡素さと質実剛健さを強調することで、フランスにおけるカトリック教会の権威主義や形式主義を暗に批判しています。
このように、観察と体験に基づく具体的な描写を用いることで、読者にリアリティを感じさせ、説得力を高めている点が特徴です。
風刺と皮肉を交えた表現
ヴォルテールは、風刺と皮肉を巧みに使い分けることで、フランス社会の矛盾や旧体制の不合理さを批判しています。
例えば、第14手紙では、イギリスの政治体制を論じる中で、フランスの絶対王政を暗に批判しています。彼は、イギリスでは国王といえども法律によって権力が制限されていることを強調し、フランスの絶対王政を「国王の一人がすべてであり、他の者は無であるような国」と皮肉を込めて表現しています。
このように、風刺と皮肉を用いることで、読者に気づきを与え、問題意識を喚起する効果を狙っています。
多様な登場人物による対話形式
『哲学書簡』では、ヴォルテール自身の意見を直接的に述べるのではなく、手紙という形式を通して、さまざまな登場人物を登場させ、対話形式で論を進めていく場面も見られます。
例えば、第10手紙では、イギリス人の貴族とフランス人の旅行者が、それぞれの国の演劇について議論を交わしています。
このような対話形式を用いることで、多様な視点から問題を浮き彫りにし、読者に考えさせることを促しています。また、対話形式にすることで、一方的な主張に陥ることを避け、客観性を装う効果も狙っています。