ヴォルテールのカンディードに関連する歴史上の事件
リスボン地震（1755年）
カンディードで最も鮮烈な歴史上の出来事の一つに、リスボン地震が挙げられます。この地震は1755年11月1日に発生し、ポルトガル、リスボンを壊滅させ、数万人の死者を出しました。この地震はヨーロッパ中に衝撃と恐怖を与え、楽観主義や神の存在について疑問を投げかけさせました。
ヴォルテールはこの地震に深く影響を受け、それをカンディードに直接反映させました。物語の冒頭で、カンディードとパンクグラスはリスボンで地震と津波に遭遇します。この出来事は物語の重要な転換点となり、主人公が住む世界の楽観主義と善意を打ち砕きます。
ヴォルテールは、地震の際に起こった人間の苦しみと残虐行為を克明に描写することで、当時の一般的な自然災害に対する考え方に疑問を呈しました。特に、ライプニッツ哲学の「最善の世界」という考え方を痛烈に批判しました。この哲学では、私たちの世界は考え得る限り最善のものであり、あらゆる悪はより大きな善のための必要悪であるとされています。
リスボン地震を物語に取り入れることで、ヴォルテールは自然災害の無意味さと人間の苦しみにおける神の摂理という問題提起を行いました。この出来事は、カンディードの楽観的な世界観を打ち砕き、彼を世界を旅して、人生の意味と悪の性質を問う旅へと駆り立てます。
七年戦争（1756-1763年）
カンディードの執筆と出版に大きな影響を与えたもう一つの重要な歴史的出来事は、七年戦争です。ヨーロッパ、北米、インドを巻き込んだこの世界的な紛争は、当時の地政学的風景を大きく塗り替えました。
ヴォルテールは戦争の残虐行為と無意味さを強調することで、戦争に対する痛烈な風刺を込めてカンディードに七年戦争の要素を盛り込みました。物語の中で、カンディードはブルガリア軍とプロイセン軍の両方に徴兵され、戦争の無意味さと人間の生命の軽視を目の当たりにします。
特に、アブランレスの戦いの生々しい描写は、戦争の残虐性を露骨に描いたものとして際立っています。ヴォルテールは戦闘の非人間性を露呈し、読者にその道徳的コストについて疑問を投げかけています。
さらに、ヴォルテールは戦争の経済的および社会的影響を探求し、それが個人やコミュニティに与える壊滅的な影響を浮き彫りにしました。戦争に起因する混乱、貧困、暴力はすべて、ヴォルテールが人間の愚かさと社会制度の欠陥に対する批判を織り交ぜて、物語の中で描写されています。
異端審問
異端審問、特にスペイン異端審問は、カンディードにおいて重要な歴史的背景となっています。カトリック教会が異端とみなされるものを根絶するために設立したこの機関は、ヨーロッパで何世紀にもわたって恐怖政治を行いました。
ヴォルテールは熱心な宗教的寛容の提唱者であり、異端審問とその残虐行為を激しく批判しました。カンディードでは、彼は異端審問の残虐性と不条理さを風刺し、宗教の名の下に行われた迫害と偏見を浮き彫りにしています。
パンクグラスが拷問と苦難に直面するキャラクターは、異端審問の残虐行為の象徴となっています。パンクグラスの苦難は、非寛容と宗教的迫害の危険性を浮き彫りにしています。
さらに、カンディードでは、アウト・デ・フェ（焚刑）や強制改宗など、異端審問で使用された方法に対する批判が展開されています。これらの出来事を物語に取り入れることで、ヴォルテールは宗教的迫害の抑圧的な雰囲気と、自由思想と表現を抑圧することの危険性を露呈しました。
啓蒙主義の思想
カンディードは、理性、経験主義、個人主義を重視した18世紀の啓蒙主義の思想に深く影響を受けています。ヴォルテールは啓蒙主義の重要な人物であり、彼の小説は運動の価値観と懸念を反映しています。
楽観主義への批判
カンディードの主なテーマの一つは、ライプニッツの哲学に見られる「すべてが最善である」という考え方を体現した楽観主義に対する批判です。ヴォルテールは、人間の苦しみと悪の存在を考えると、楽観主義はナイーブで現実からかけ離れていると主張しています。
悪と苦しみの問題
カンディードでは、世界における悪と苦しみの問題が探求されています。ヴォルテールは、なぜ悪が存在するのか、なぜ善良な人々が苦しまなければならないのかという疑問を提起しています。彼は包括的な答えを提供していませんが、これらの問題に取り組むことの重要性を示唆しています。
社会制度の批判
ヴォルテールはカンディードを通して、貴族、教会、軍隊など、当時の社会制度を批判しています。彼はこれらの制度が腐敗し、不当であり、しばしば人間の苦しみの原因となっていることを示唆しています。
個人の価値
啓蒙主義の理想と一致して、カンディードは個人の価値と自律性を強調しています。ヴォルテールは、個人は自分の運命の主人であり、ドグマや抑圧から自由であるべきだと主張しています。
これらの歴史的出来事や啓蒙主義の思想を取り入れることで、ヴォルテールはカンディードを、人間の状況と彼を取り巻く世界に対する鋭い風刺として作り上げました。この小説は、その出版以来、読者に挑戦し、魅了し続けてきた、時代を超えたテーマを探求しています。