## ヴォルテールの『哲学書簡』とアートとの関係
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イギリス美術に関する記述
『哲学書簡』の中で、ヴォルテールはイギリス滞在中に見聞きした経験をもとに、フランスの読者に向けてイギリス社会の様々な側面を紹介しています。その中には、第24信と第25信で触れられる美術に関する記述も含まれています。
第24信では、フランスではあまり知られていなかったイギリスの詩人ミルトンを高く評価し、その作品『失楽園』を詳しく紹介しています。ヴォルテールは、ミルトンの作品が持つ壮大なスケール、力強い表現、そして深い思想性に感銘を受け、フランス古典主義の枠にとらわれない新しい芸術の可能性を見出しました。
続く第25信では、建築、彫刻、絵画といった視覚芸術に焦点を当て、イギリスにおけるそれらの発展状況について言及しています。ヴォルテールは、フランスと比較してイギリスの芸術は歴史が浅く、洗練されていないと認めながらも、その自由な気風と個性的な表現に注目しています。特に、肖像画の分野におけるイギリス独自の写実主義的な表現を高く評価し、宮廷文化中心のフランス美術とは異なる、市民社会を反映した新しい芸術のあり方を示唆しています。
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芸術観への影響
『哲学書簡』におけるこれらの記述は、当時のフランスの読者に少なからず衝撃を与え、その後のフランスにおける芸術観に影響を与えたと考えられています。
ヴォルテール自身は、特定の芸術理論を展開したわけではありません。しかし、イギリス美術の紹介を通して、フランス古典主義の絶対的な権威に疑問を呈し、より自由で多様な表現の可能性を示唆しました。これは、その後のロマン主義や写実主義といった新しい芸術思潮の萌芽として捉えることもできるでしょう。
また、『哲学書簡』で示されたイギリス美術に対する関心は、フランス国内におけるイギリス文化への関心の高まりに繋がり、18世紀後半には「アングロマニー」と呼ばれる社会現象まで巻き起こりました。このアングロマニーの影響は、美術の分野にも及び、イギリスの風景画家や肖像画家がフランスで高く評価されるようになりました。