## ヴェブレンの企業の理論から学ぶ時代性
ヴェブレンの企業像：金銭的競争本能に駆られた「欠陥機械」
ソーンシュタイン・ヴェブレンは、その経済学説において、人間の本性を「経済人」としてではなく、社会的な地位や名誉を追い求める「有閑階級」と生産に従事する「産業階級」の対比から説明しようと試みました。ヴェブレンは、経済活動の根底にあるのは、必ずしも合理的な計算に基づくものではなく、むしろ社会的な承認欲求であると考えたのです。
特に企業家については、利潤の最大化を目的とする「経済人」とは全く異なる存在として捉えられています。ヴェブレンの目には、企業家は、技術革新や効率的な生産よりも、むしろ金銭的な成功を通じて社会的な地位や権力を誇示することに強い関心を抱く存在として映っていました。
そして、企業は、こうした企業家の「金銭的競争本能」を満たすための「道具」として機能していると彼は考えました。企業は、効率性や生産性よりも、むしろ広告やマーケティングを通じて自社の製品を「見せびらかし」、競争相手を出し抜くことに躍起になるのです。ヴェブレンは、このような企業の行動を「顕示的消費」と呼び、経済全体の非効率性を招くものとして批判しました。
ヴェブレンは、企業を、市場メカニズムによって最適化される効率的な組織ではなく、むしろ人間の欲望や社会構造に深く根ざした「欠陥機械」として描き出しました。
「見せびらかし」と「競争」：現代社会への示唆
ヴェブレンが活躍した時代から100年以上が経過した現代においても、彼の企業分析は色褪せないどころか、むしろその洞察の深さを増しているように思われます。現代社会においても、企業は、単に商品やサービスを提供するだけでなく、ブランドイメージや企業文化を通じて、消費者のライフスタイルや価値観にまで影響を与える存在となっています。
ソーシャルメディアの普及は、企業の「顕示的消費」をさらに加速させています。企業は、自社の製品やサービスを、魅力的なイメージとともに発信することで、消費者の購買意欲を刺激しようと試みています。また、インフルエンサーマーケティングに見られるように、消費者のステータス志向に訴えかけることで、購買行動を促進することも一般的になっています。
ヴェブレンは、このような「見せびらかし」の競争が、際限のない浪費や資源の枯渇、さらには社会全体の道徳的な退廃を招くと警告しました。現代社会においても、環境問題や経済格差が深刻化する中で、ヴェブレンの警告は、私たち自身の消費行動や企業の社会的責任について、改めて深く考えさせるものと言えるでしょう。