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ワイルドの獄中記に影響を与えた本

ワイルドの獄中記に影響を与えた本

ダンテ『神曲』

オスカー・ワイルドの『獄中記』は、作者が同性愛の罪で投獄された後に書かれた、深く個人的な反省と苦悩に満ちた作品です。この作品の中で、ワイルドは自身の苦しみを表現するために、様々な文学作品や思想を参照しています。その中でも特に重要な影響を与えているのが、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』です。

『神曲』は、ダンテが自らの人生を振り返りながら、地獄、煉獄、天国という三つの世界を旅する物語です。ワイルドは獄中という現実の苦しみの中にいる自分と、ダンテが詩的に描いた地獄の苦しみを重ね合わせていました。『獄中記』の中で、ワイルドはダンテの詩の一節を引用したり、ダンテの作品世界を彷彿とさせるイメージを用いたりすることで、自身の絶望感や孤独感をより鮮明に描き出しています。

特に、『獄中記』の中で繰り返し登場する「悲しみの円」というモチーフは、『神曲』の地獄篇に登場する、罪人がそれぞれに応じた罰を受ける円形構造をした地獄のイメージと深く結びついています。ワイルドは、自身の置かれた状況を「悲しみの円」と呼ぶことで、逃れようのない絶望感と、罪と罰というキリスト教的な観념に囚われた自身の苦悩を表現しています。

さらに、『神曲』におけるベアトリーチェの存在も、ワイルドに大きな影響を与えたと考えられます。ベアトリーチェは、ダンテが生涯愛した女性であり、彼を導く天上の存在として『神曲』に登場します。ワイルドは獄中で、自身の同性愛に対する社会の偏見と、愛する者と引き裂かれる苦しみを経験しました。『神曲』におけるベアトリーチェの、愛と救済の象徴としての存在は、ワイルドにとって、心の支えとなり、希望の光となったのかもしれません。

このように、『神曲』は、ワイルドの『獄中記』に多大な影響を与えた作品と言えるでしょう。ワイルドは、ダンテの詩的な想像力と、人間の罪と救済に対する深遠な洞察を通して、自身の経験を普遍的なレベルへと昇華させ、文学史に残る傑作を生み出したのです。

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