## ワイルドのドリアン・グレイの肖像の原点
ワイルド自身の発言
ワイルド自身は、様々な場面で『ドリアン・グレイの肖像』の着想源について語っていますが、具体的な作品名などを挙げて明言したことはありません。 いくつかのインタビューや手紙の中で、本作が現実の事件や人物から直接着想を得たものではないことを強調しています。
例えば、1891年の新聞インタビューでは、「ドリアン・グレイは17世紀の文学に見られるタイプの現代版に過ぎない」と述べています。また、別のインタビューでは、「芸術と生活の関係についての哲学的な考察から生まれた作品である」と語っています。
当時の文学的潮流
『ドリアン・グレイの肖像』は、19世紀後半にヨーロッパで流行した「世紀末文学」や「退廃主義文学」の影響を強く受けていると考えられています。これらの文学は、美の追求、道徳の退廃、快楽主義、神秘主義などをテーマとしており、ワイルドの作品にも共通する要素が見られます。
特に、シャルル・ボードレールやポール・ヴェルレーヌ、アルテュール・ランボーなどのフランス象徴主義詩人たちの作品は、ワイルドに大きな影響を与えたと言われています。彼らの作品に見られる、退廃的な美意識や感覚的な表現、象徴主義的な手法などは、『ドリアン・グレイの肖像』にも色濃く反映されています。
具体的な作品との類似性
『ドリアン・グレイの肖像』は、いくつかの先行作品との類似性が指摘されています。その中でも特に有名なのが、以下の2作品です。
* **オノレ・ド・バルザックの小説『 peau de chagrin』(邦題:ふくろう)』**: 願いを叶えるたびに縮んでいく魔法の革を手に入れた男の物語。欲望の追求と引き換えに、人生が失われていくという点で、『ドリアン・グレイの肖像』と共通するテーマが描かれています。
* **ロバート・ルイス・スティーブンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』**: 善良な医師が、自ら作り出した薬によって凶暴な別人格に変身してしまう物語。人間の二面性や善と悪の葛藤というテーマは、『ドリアン・グレイの肖像』にも通じるものがあります。
ただし、これらの作品はあくまで類似点を持つ作品として挙げられるものであり、『ドリアン・グレイの肖像』の直接的な着想源であると断定することはできません。