## ワイルドのドリアン・グレイの肖像から学ぶ時代性
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美への執着と退廃の美学
19世紀末のイギリス、ヴィクトリア朝後期は、社会の表面的な安定とは裏腹に、退廃的なムードが漂い始めていました。産業革命による物質的な豊かさは、一方で貧富の格差を広げ、道徳の退廃や享楽主義を生み出しました。「ドリアン・グレイの肖像」はこの時代の空気を色濃く反映しており、特に上流階級における退廃的な美意識を、主人公ドリアン・グレイの姿を通して描いています。
ドリアンは、自身の肖像画に自身の老いと醜悪さをすべて押し付け、永遠の若さと美貌を手に入れます。彼はその美貌を武器に、快楽主義的な生活に溺れていきます。彼の美への執着は、当時の上流階級に蔓延していた、外面的な美しさだけを重視する風潮を象徴しています。
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芸術至上主義と道徳の断絶
「芸術のための芸術」という思想が台頭したのも、この時期の特徴です。芸術は道徳や社会的な目的から解放され、純粋な美の追求のみを目的とするべきだと考えられました。この思想は、耽美主義として文学や美術の分野に大きな影響を与えました。
「ドリアン・グレイの肖像」に登場するヘンリー卿は、この耽美主義を体現する人物です。彼は、美こそが人生で最も価値のあるものであり、道徳や倫理は美的快楽の妨げにしかならないと説きます。そして、ドリアンに悪徳と快楽に満ちた生活を送り込むことで、彼自身を芸術作品として完成させようとします。
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表面的なモラルと内面の腐敗
ヴィクトリア朝社会は、厳格な道徳観によって支配されていました。しかし、その一方で、上流階級の人々は、外面的な体裁さえ保っていれば、内面では何をしようと許されると考えていました。ドリアンも、美しい容姿の裏に、自分の欲望を満たすためなら手段を選ばない、冷酷で自己中心的な心を隠し持っていました。
彼の肖像画は、彼の内面の腐敗が進むにつれて、醜く歪んでいきます。これは、外面的な美しさとは裏腹に、内面が腐敗していく様を象徴的に示しています。ドリアンの末路は、真の美しさは外面ではなく内面に宿るものであり、道徳から切り離された美は、やがて醜さと堕落へと転落することを暗示しています。