## ワイルドのサロメの思想的背景
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世紀末のデカダンス
ワイルドの「サロメ」が執筆された19世紀末は、ヴィクトリア朝時代の道徳観や価値観が揺らぎ始め、退廃的かつ耽美的な傾向が強まった時代でした。この時代の雰囲気は「世紀末」と呼ばれ、「サロメ」はその特徴を色濃く反映した作品と言えるでしょう。劇中に描かれる退廃的な雰囲気、官能的な描写、そして死や堕落への執着は、世紀末特有の美意識を体現しています。
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フランス象徴主義の影響
「サロメ」は、同時代のフランス象徴主義文学の影響を強く受けています。象徴主義は、言葉による直接的な表現を避け、暗示や象徴を用いて、感覚や感情、観念などを表現しようとする芸術運動です。ワイルドは、象徴主義の旗手であったマラルメやヴェルレーヌなどの詩人たちと親交があり、彼らの作品から大きな影響を受けました。「サロメ」における月の象徴性、登場人物の台詞に見られる詩的な表現、そして物語全体を覆う幻想的な雰囲気は、象徴主義の影響を色濃く反映しています。
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聖書と古代神話
「サロメ」は、新約聖書に登場するサロメと洗礼者ヨハネの物語を題材としています。しかし、ワイルドは聖書の物語をそのまま描いたのではなく、独自の解釈を加えることで、全く新しい物語を創造しました。聖書の物語では脇役であったサロメを主人公に据え、彼女の異常な欲望と、それがもたらす悲劇を描いています。また、劇中には聖書の物語以外にも、古代ギリシャ神話のナルキッソスや月の女神などのモチーフが散りばめられており、作品に深みと複雑さを与えています。