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ロビンソンの資本蓄積論を深く理解するための背景知識

ロビンソンの資本蓄積論を深く理解するための背景知識

1. ロビンソンの時代背景と経済学における位置づけ

ジョーン・ヴァイオレット・ロビンソン(1903-1983)は、20世紀を代表するイギリスの経済学者です。ケインズ経済学の第2世代に属し、ケンブリッジ大学で長年教鞭をとりました。彼女の代表作である「資本蓄積論」(1956年)は、ケインズ経済学を土台に、資本主義経済における成長と分配の問題を動学的に分析した画期的な著作です。

ロビンソンが活躍した時代は、第二次世界大戦後の資本主義経済が高度成長を遂げていた時期と重なります。当時の経済学界では、ケインズの「一般理論」の影響を受け、有効需要の維持による完全雇用達成が主要な政策課題となっていました。しかし、ケインズ自身は長期的な経済成長については深く分析しておらず、その理論は短期的な景気循環の分析に留まっていました。

こうした背景のもと、ロビンソンはケインズ経済学を発展させ、長期的な経済成長と分配の問題を体系的に分析しようと試みました。彼女は、資本蓄積、技術進歩、所得分配、階級構造といった要素が相互に関連し合い、資本主義経済の動態を規定すると考えました。

2. ケインズ経済学の基本的な考え方

ロビンソンの資本蓄積論を理解する上で、ケインズ経済学の基本的な考え方を把握しておくことは不可欠です。ケインズ経済学は、古典派経済学とは異なり、市場メカニズムが常に完全雇用を達成するとは限らないと主張します。

古典派経済学では、賃金や価格が柔軟に調整されることで、労働市場と商品市場は常に均衡し、完全雇用が実現すると考えられていました。しかし、ケインズは、現実の経済では賃金や価格が硬直的であるため、市場メカニズムがうまく機能せず、非自発的な失業が発生しうると指摘しました。

ケインズは、有効需要の不足が不況の原因であると分析しました。有効需要とは、企業が生産した財やサービスを購入しようとする需要のことです。有効需要が不足すると、企業は生産を縮小し、雇用を削減するため、不況に陥ります。

ケインズは、政府が財政政策や金融政策によって有効需要を管理することで、完全雇用を達成できると主張しました。例えば、政府支出を増やしたり、減税したりすることで、有効需要を増加させることができます。

3. ネオクラシカル経済学との対比

ロビンソンの資本蓄積論は、当時の主流派経済学であったネオクラシカル経済学に対する批判的な視点を含んでいます。ネオクラシカル経済学は、個々の経済主体の合理的行動を前提に、市場メカニズムによる資源配分の効率性を重視する学派です。

ネオクラシカル経済学では、資本は生産要素の一つとして扱われ、その価格は市場メカニズムによって決定されると考えられています。しかし、ロビンソンは、資本は単なる生産要素ではなく、過去の労働の成果であり、社会的な力関係によってその分配が決定されると批判しました。

また、ネオクラシカル経済学では、経済成長は技術進歩によって説明されます。しかし、ロビンソンは、技術進歩は資本蓄積と密接に関連しており、資本蓄積が技術進歩を促進する側面もあると指摘しました。

ロビンソンは、ネオクラシカル経済学の静学的で均衡的な分析方法では、資本主義経済の動態を十分に理解できないと批判し、歴史的・制度的な要素を考慮した動学的な分析の必要性を訴えました。

4. マルクス経済学との関連性

ロビンソンの資本蓄積論は、マルクス経済学からも影響を受けています。特に、資本蓄積、階級構造、搾取といった概念は、マルクス経済学から借用されたものです。

マルクス経済学では、資本主義経済は資本家階級と労働者階級の対立によって特徴づけられるとされます。資本家は生産手段を所有し、労働者は労働力を提供することで賃金を得ます。資本家は、労働者から搾取した剰余価値によって資本蓄積を行い、経済成長を促進します。

ロビンソンは、マルクスの階級分析を参考にしながら、資本主義経済における所得分配と権力構造を分析しました。彼女は、資本蓄積は必ずしも社会全体にとって望ましいものではなく、所得分配の不平等や階級対立を激化させる可能性があると指摘しました。

ただし、ロビンソンはマルクス主義者ではありませんでした。彼女は、マルクス経済学の一部の理論を批判し、ケインズ経済学の枠組みの中で資本主義経済を分析しようとしました。

5. ケンブリッジ資本論争との関連

ロビンソンは、1960年代に起きた「ケンブリッジ資本論争」の中心人物の一人でした。この論争は、資本財の概念や測定方法をめぐって、ケンブリッジ大学(イギリス)の経済学者とマサチューセッツ工科大学(アメリカ)の経済学者の間で繰り広げられました。

ケンブリッジ大学の経済学者たちは、資本財は単なる物理的な存在ではなく、社会的な関係によって規定されると主張しました。彼らは、資本財の価値を労働量で測定すべきだと主張し、ネオクラシカル経済学が用いる限界生産力説を批判しました。

一方、マサチューセッツ工科大学の経済学者たちは、資本財の価値は市場価格によって決定されると主張し、限界生産力説を擁護しました。

ケンブリッジ資本論争は、資本主義経済における資本蓄積と所得分配のメカニズムを解明する上で重要な論点を含んでおり、ロビンソンの資本蓄積論を理解する上で欠かせない背景知識となります。

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