## ロビンソンの資本蓄積論に影響を与えた本:ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』
ケインズ経済学とロビンソンの出会い
ジョーン・ロビンソンは、20世紀を代表する経済学者の一人であり、マルクス経済学とケインズ経済学を融合させた独自の理論体系を構築しました。彼女の代表作である『資本蓄積論』(1956年) は、資本主義経済における成長と分配の問題を、歴史的時間の中で分析した画期的な著作として知られています。
ロビンソンは、ケンブリッジ大学で経済学を学び、初期にはアルフレッド・マーシャルらの新古典派経済学の影響を受けていました。しかし、1930年代の世界恐慌を経験する中で、当時の主流派経済学であった新古典派経済学では、現実の経済を説明できないことに気づき、1936年に出版されたジョン・メイナード・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』に強い衝撃を受けたとされています。
『一般理論』が提示した新しい経済学
ケインズの『一般理論』は、当時の経済学のパラダイムを大きく転換させるものでした。当時の経済学は、市場メカニズムが自動的に完全雇用を実現するというセイの法則を前提としていましたが、ケインズは、有効需要の不足によって失業が生じる可能性を指摘し、政府による積極的な財政政策の必要性を主張しました。
ケインズの主張は、世界恐慌による不況にあえいでいた当時の経済状況を説明するだけでなく、政府の役割や経済政策のあり方について、全く新しい視点を提供するものでした。ロビンソンは、『一般理論』によって、それまでの新古典派経済学では無視されてきた、現実の資本主義経済における不完全性や不安定性を理解するための枠組みを得ることができたのです。
『資本蓄積論』におけるケインズ経済学の影響
ロビンソンは、『資本蓄積論』において、ケインズの有効需要の原理を基盤として、資本主義経済における成長と分配の問題を分析しています。彼女は、資本蓄積が利潤率によって規定されることを明らかにし、利潤率と賃金率の関係、投資と貯蓄の関係などを分析することで、資本主義経済における成長のダイナミズムを解明しようとしました。
また、ロビンソンは、ケインズ経済学における短期分析の枠組みを長期に拡張し、技術進歩、人口増加、所得分配などが経済成長に及ぼす影響を分析しました。さらに、完全競争市場を前提とした新古典派経済学とは異なり、現実の資本主義経済における不完全競争、独占、寡占などの要素を取り入れることで、より現実的な分析を試みました。
このように、『資本蓄積論』は、ケインズ経済学の影響を色濃く受けた作品であり、ロビンソンは、『一般理論』から得た洞察を基に、独自の理論を展開していったのです。