## ロビンソンの資本蓄積論から学ぶ時代性
1. ケインズ経済学の隆盛と限界
ジョーン・ロビンソンの主著『資本蓄積論』が出版された1956年は、第二次世界大戦後の世界経済が安定成長期へと移行していく中で、ケインズ経済学が政策担当者や経済学者の間で広く支持を集めていた時代でした。ケインズ経済学は、有効需要の不足が不況や失業の原因であるとし、政府による積極的な財政・金融政策の必要性を説いていました。
ロビンソン自身も、ケインズ経済学に強い影響を受けた経済学者の一人でした。しかし、彼女は、ケインズ経済学が短期的な経済分析に偏っていること、資本蓄積や分配問題を十分に扱っていないことなどを批判しました。『資本蓄積論』は、こうした問題意識の下で、長期的な資本蓄積と分配の関係を分析し、資本主義経済の動学的メカニズムを明らかにしようとする試みでした。
2. 冷戦構造と資本主義経済への批判
1950年代は、米ソ冷戦が激化する中で、資本主義陣営と社会主義陣営が激しく対立していた時代でもありました。ロビンソンは、マルクス経済学にも造詣が深く、資本主義経済の矛盾や限界を鋭く指摘していました。『資本蓄積論』においても、彼女は、資本主義経済における利潤率の低下傾向、所得格差の拡大、景気循環の不安定性などの問題を取り上げ、資本主義経済に対する批判的な視点を提示しました。
特に、ロビンソンは、資本主義経済における技術進歩が、常に労働者の利益につながるとは限らないことを指摘しました。彼女は、技術進歩が労働節約的なものである場合、失業が増加し、労働者の交渉力が低下する可能性があると論じました。この点は、当時、自動化や技術革新が労働市場に及ぼす影響について、楽観論と悲観論が交錯していた時代背景の中で、重要な視点を提供するものでした。
3. 開発経済学の台頭と不均衡な発展
1950年代は、アジア・アフリカ諸国において、植民地支配からの独立が相次ぎ、新たな国家建設が開始された時代でもありました。こうした中で、開発途上国の経済成長をいかにして実現するかという問題が、経済学の重要な課題として浮上してきました。ロビンソンは、こうした開発経済学の動向にも関心を持ち、先進国と発展途上国の間の不均衡な経済関係が、世界経済の不安定要因になっていることを指摘しました。
『資本蓄積論』の中で、ロビンソンは、国際貿易における先進国の優位性、発展途上国における資本不足や技術格差などの問題を取り上げ、国際的な視点から資本蓄積と経済成長の関係を分析しました. 特に、彼女は、発展途上国が先進国の後追いをするだけでは真の発展は達成できないとし、独自の産業構造や技術体系を構築することの重要性を強調しました。