## ロックの市民政府論を深く理解するための背景知識
ロックが生きた時代とその社会状況
ジョン・ロック（1632-1704）は、イギリスの哲学者であり、政治思想家です。彼は、イギリス革命（清教徒革命、名誉革命）という激動の時代を生きました。17世紀のイギリスは、国王と議会との対立、宗教的な対立、社会的な変革など、様々な出来事が起こり、ロックの思想形成に大きな影響を与えました。
まず、**国王と議会との対立**は、ロックの市民政府論を考える上で重要な背景です。当時、イギリスでは国王の権力と議会の権力がせめぎ合っていました。国王は「王権神授説」を主張し、絶対的な権力を持つとされました。一方、議会は国民の代表機関として、国王の権力に制限を加えようとしていました。この対立は、チャールズ1世の処刑やクロムウェルの独裁政治、そして名誉革命へとつながり、ロックの思想にも大きな影響を与えました。
次に、**宗教的な対立**もロックの思想に影響を与えた要素です。イギリスでは、国教会とピューリタンなどの非国教徒との対立が激化していました。ロック自身は、宗教的な寛容を主張し、国家が個人の信仰に干渉すべきではないと考えました。これは、彼の市民政府論において、個人の権利と自由を重視する考え方に繋がっています。
さらに、**社会的な変革**もロックの思想に影響を与えました。17世紀のイギリスでは、商業の発展や資本主義の萌芽が見られ、社会構造が大きく変化していました。新たな社会階層である市民階級が台頭し、彼らは政治的な権利の拡大を求めるようになりました。ロックは、このような社会の変化を背景に、個人の権利と自由、そして限定された政府という考え方を発展させました。
ロック以前の政治思想
ロックの市民政府論を理解するには、彼以前の政治思想についても知る必要があります。特に重要なのは、**自然法思想**と**社会契約説**です。
**自然法思想**は、人間の理性によって認識できる普遍的な道徳法則、すなわち自然法が存在するという考え方です。古代ギリシャの哲学者アリストテレスやローマの法学者キケロなどによって提唱され、中世のトマス・アクィナスによってキリスト教神学と融合されました。自然法思想は、人間の権利や自由は神によって与えられたものであり、国家権力によっても侵害されるべきではないという考え方の根拠となりました。
**社会契約説**は、国家は個人の自由な合意、すなわち社会契約によって成立するという考え方です。古代ギリシャのソフィストたちによって提唱され、近代ではトマス・ホッブズやロックによって発展させられました。ホッブズは、自然状態では人間は「万人の万人に対する闘争」状態にあり、安全を確保するために絶対的な権力を持つ君主に服従する社会契約を結ぶとしました。一方、ロックは、自然状態においても人間は自然法によって守られた権利と自由を持ち、より良い生活を送るために限定的な政府を作る社会契約を結ぶとしました。
ロックの思想に影響を与えた人物
ロックの思想に影響を与えた人物は多くいますが、特に重要なのは、**リチャード・フッカー**、**エドワード・コーク**、**アルジャーノン・シドニー**です。
**リチャード・フッカー**（1554-1600）は、イギリス国教会の神学者であり、自然法思想に基づいて教会と国家の関係を論じました。彼は、教会と国家はそれぞれ独立した権限を持ち、互いに干渉すべきではないと主張しました。この考え方は、ロックの宗教的寛容の思想に影響を与えました。
**エドワード・コーク**（1552-1634）は、イギリスの法学者であり、コモン・ローの擁護者として知られています。彼は、国王の権力は法律によって制限されるべきであり、裁判官は国王の命令よりも法律に従うべきだと主張しました。この考え方は、ロックの法の支配の思想に影響を与えました。
**アルジャーノン・シドニー**（1623-1683）は、イギリスの共和主義者であり、人民主権論を主張しました。彼は、政治権力は人民に由来し、政府は人民の同意に基づいて統治すべきだと主張しました。この考え方は、ロックの抵抗権の思想に影響を与えました。
これらの背景知識を踏まえることで、ロックの市民政府論をより深く理解することができます。ロックの思想は、近代政治思想の基礎となり、現代の民主主義や人権思想にも大きな影響を与えています。
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