## ロックの人間知性論の案内
ロックの「人間知性論」の概要
ジョン・ロックの主著『人間知性論』は、1689年に出版された経験主義哲学の古典です。この著作でロックは、人間の心の働きと知識の起源、範囲、限界について体系的に論じています。
背景
ロックは、当時のヨーロッパ思想界を支配していたデカルト派の合理主義に異議を唱えました。合理主義は、人間には生まれながらに備わっている理性によって真実に到達できると主張しました。しかしロックは、経験こそが知識の唯一の源泉であると主張し、経験主義の立場から人間の知性を分析しました。
内容
『人間知性論』は、大きく分けて以下の四編から構成されています。
1. **第一編:生得観念の反駁**
ロックはまず、デカルト派が主張する「生得観念」の存在を批判します。生得観念とは、人間が生まれながらに持っているとする、あらゆる人に共通の知識や概念のことです。ロックは、普遍的に同意されている観念は存在しないことを示し、すべての観念は経験に由来すると主張します。
2. **第二編:観念について**
ロックは、人間の心は生まれた時は「白紙状態(タブラ・ラサ)」であり、経験を通して観念を獲得していくと説明します。観念には、感覚を通して得られる「単純観念」と、複数の単純観念を組み合わせることで形成される「複合観念」の二種類があります。
3. **第三編:言葉について**
ロックは、言語が観念の伝達手段であることを論じます。言葉は、人間が自身の観念に与えた記号であり、その意味は共通の了解に基づいています。
4. **第四編:知識について**
知識とは、観念の間の結びつきや合致を認識することです。ロックは、直感的知識、実証的知識、および推論的知識の三種類を挙げ、それぞれの知識の確実性と限界について考察しています。
影響
『人間知性論』は、経験主義哲学の基礎を築き、イギリス経験論、ひいては西洋近代思想全体に多大な影響を与えました。バークリー、ヒュームといった後続の哲学者たちは、ロックの思想を継承しつつも、独自の批判を加えることで経験主義を発展させていきました。また、ロックの政治哲学も高く評価されており、その思想はアメリカ独立宣言などにも影響を与えたと言われています。