## ロストフツェフのヘレニズム世界社会経済史の思想的背景
ミハイル・ロストフツェフ(1870-1952)
は、古代史、特にヘレニズム時代を専門とするロシア・アメリカの学者でした。彼の代表作である『ヘレニズム世界社会経済史』(1941) は、アレクサンドロス大王の死後からローマ帝国の台頭までの期間を包括的に分析した画期的な研究です。この著作は、古代世界の経済的、社会的、文化的側面を深く掘り下げ、現代の学術界に大きな影響を与えました。
ロストフツェフの思想的背景を形成した要素
は、大きく分けて以下の3つに分類できます。
### 1. 19世紀後半から20世紀初頭の学術的潮流
ロストフツェフは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてヨーロッパで隆盛を極めた実証主義、進化論、社会科学の影響を強く受けました。
* **実証主義:** ロストフツェフは、一次資料に基づいた客観的な歴史記述を目指しました。彼は、碑文、パピルス文書、考古学的遺物などの膨大な資料を駆使して、古代社会の実態を解明しようと試みました。
* **進化論:** ロストフツェフは、歴史を段階的に発展していくプロセスとして捉え、ヘレニズム時代を古代ギリシャ文明からローマ帝国へと至る重要な転換期と位置づけました。
* **社会科学:** ロストフツェフは、経済学、社会学、人類学などの社会科学の方法論を取り入れ、古代社会の構造や変化を分析しました。彼は、経済活動、社会階層、都市と農村の関係などに注目し、ヘレニズム時代の複雑な社会構造を描き出しました。
### 2. ロシア革命の影響
ロストフツェフは、1917年のロシア革命を経験し、その後のソビエト連邦の成立を目の当たりにしました。この経験は、彼の歴史観や社会観に大きな影響を与えました。
* **革命と社会変動:** ロストフツェフは、革命がもたらす社会の激動と混乱を目の当たりにし、歴史における社会変動の重要性を痛感しました。
* **国家と個人:** ロストフツェフは、ソビエト政権による全体主義的な国家体制を目の当たりにし、個人の自由と権利を重視するようになりました。
### 3. ヘレニズム時代への関心
ロストフツェフは、若い頃から古代ギリシャ文明に強い関心を抱いていました。彼は、アレクサンドロス大王の東方遠征によって生み出されたヘレニズム時代を、古代世界に大きな変化をもたらした画期的な時代と捉え、その実態を解明することに情熱を注ぎました。
これらの要素が複雑に絡み合い、ロストフツェフ独自のヘレニズム世界観を形成しました。