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ルターのキリスト者の自由の位置づけ

## ルターのキリスト者の自由の位置づけ

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執筆の背景と目的

1520年、ルターは贖宥状問題に端を発したローマ教会との論争の渦中にありました。彼はこの年、主要な改革思想を体系的に示した三つの論文を立て続けに発表します。教会の権威を論じた『ドイツ国民のキリスト教貴族に告ぐ』、教会の秘跡を論じた『教会のバビロン捕囚について』、そしてキリスト者の自由を論じた『キリスト者の自由について』です。

ルターはザクセン選帝侯フリードリヒ賢公の保護のもと、ヴィッテンベルクで比較的自由に活動していましたが、同年6月には教皇レオ10世から教皇勅書『Exsurge Domine(起き上がれ、主よ)』を発布され、自著の破棄と撤回を迫られます。しかしルターはこれを拒否し、同年12月には教皇勅書および教会法典を焼き捨てるという行動に出ます。このような状況下で書かれた『キリスト者の自由について』は、ルターの友人であり、教皇庁に召喚されたのちにルターに共鳴した騎士階級の代表的人物であるフランツ・フォン・ジッキンゲンに献呈されました。

この著作でルターは、外的な権威や制度から自由であると同時に、信仰に基づく愛によって隣人に仕えるという、キリスト者における真の自由のあり方を示そうと試みています。それは、当時の教会制度や社会構造の中で、真の信仰とは何かを問うものであり、来るべき宗教改革の重要な基礎となりました。

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内容と主要な論点

ルターは『キリスト者の自由について』の中で、次の二つの命題を対比させています。

* **「キリスト者は、あらゆるものに自由であり、すべてのものでない。」**
* **「キリスト者は、あらゆるものに仕える義務を負っており、すべてのものの奴隷である。」**

一見矛盾するこれらの命題は、ルターの考えるキリスト者の自由の本質を示すものであり、以下のように説明されます。

1. **信仰による内面の自由:** キリスト者は、信仰によってのみ義とされ、救われるとされます。この信仰は、いかなる外的行為や制度によってももたらされるものではなく、神の恵みによる賜物であるとルターは主張します。そして、この信仰によって人は罪と死の束縛から解放され、真の意味で自由になります。これは、当時の教会が重視していた、贖宥状の購入や善行の積み重ねによる救済とは全く異なる考え方でした。

2. **愛による隣人への奉仕:** 信仰によって自由になったキリスト者は、もはや律法の強制ではなく、自発的な愛の行動によって隣人に仕える存在となります。ルターは、真の自由とは自己中心的なものではなく、他者を思いやり、そのために尽くすことであると説いています。これは、信仰と行為の一致を強調するものであり、キリスト者の日常生活における責任を明らかにするものでした。

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歴史的影響

『キリスト者の自由について』は、ルターの他の著作と同様に、広くヨーロッパ社会に影響を与えました。

* **宗教改革の推進:** この著作は、ルターの宗教改革思想、特に信仰義認説や万人祭司説を明確に示すものであり、宗教改革の広がりに大きく貢献しました。

* **社会倫理への影響:** 信仰と愛に基づく自由と責任の概念は、当時の社会倫理にも大きな影響を与え、後の社会福祉活動や教育改革などの動きにも影響を与えたと考えられます。

* **政治思想への影響:** 個人と権力、自由と責任の関係についてのルターの考え方は、当時の政治思想にも影響を与え、後の市民革命や民主主義の発展にも間接的に寄与したという見方もあります。

このように、『キリスト者の自由について』は、宗教改革という歴史的転換点におけるルターの思想を理解する上で重要な著作であると位置づけられています。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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