## ルカーチの歴史と階級意識の批評
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ルカーチの主張に対する主な批判
ルカーチの主著『歴史と階級意識』は、マルクス主義の観点から、歴史における人間の意識の役割を分析した画期的な著作として評価されています。しかし、その革新性の反面、出版当初から様々な批判が寄せられてきました。
#### 1.
唯物史観の誤解に基づく批判
ルカーチは、ヘーゲル弁証法の影響を受け、「物象化」や「階級意識」といった概念を用いて、資本主義社会における疎外や意識の歪みを分析しました。しかし、この試みは、経済的基盤が意識を規定するというマルクスの唯物史観を、機械的に解釈しているという批判を招きました。
具体的には、ルカーチが「プロレタリアートのみが真の階級意識を持ち得る」と主張した点が問題視されました。これは、プロレタリアート以外の階級の意識や主体性を軽視し、歴史の主体としての役割を過小評価しているという指摘を受けました。
#### 2.
「階級意識」概念の曖昧性に対する批判
ルカーチは、「階級意識」を「客観的な階級状況に対する自覚」として定義しましたが、その具体的な内容は必ずしも明確ではありません。
例えば、「プロレタリアートがどのようにして真の階級意識を獲得するのか」「その過程で知識人や党の役割はどのように位置づけられるのか」といった点に関して、ルカーチは十分な説明を与えていません。この曖昧さは、後にスターリン主義的な教条主義を正当化する根拠として利用されたという批判もあります。
#### 3.
方法論的個人主義の軽視に対する批判
ルカーチは、個人よりも階級という集団を重視し、個人の意識や行動は階級意識によって規定されると考えました。しかし、この立場は、個人の主体性や自由意志を軽視し、人間を階級という枠組みに押し込めるものであるという批判があります。
個人の経験や価値観、選択の自由といった要素を軽視することで、人間の行動の複雑さを捉えきれていないという指摘もあります。
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その後の展開と影響
これらの批判にもかかわらず、『歴史と階級意識』は、西洋マルクス主義の重要な出発点として位置づけられています。特に、ルカーチの思想は、グラムシ、アドルノ、ベンヤミン、ルフェーヴルといった思想家に多大な影響を与え、現代思想の展開に大きな役割を果たしました。