## ルカーチの「歴史と階級意識」とアートとの関係
ルカーチにおける物象化と疎外
ルカーチは、マルクスの疎外論を基に、資本主義社会における人間の意識と現実との乖離を「物象化」という概念を用いて分析しました。「歴史と階級意識」では、この物象化が、人間が自ら作り出した社会関係を、あたかも自然法則であるかのように捉えてしまうことだと説明されています。この物象化は、労働の分業によって労働者が生産物から疎外されることから生じ、社会全体に広がっていくとルカーチは主張します。
芸術における物象化の克服
ルカーチは、芸術作品は、この物象化された現実を克服し、全体性を回復する可能性を秘めていると考えました。彼によれば、芸術作品は、現実を単に模倣するのではなく、その背にある本質、すなわち人間の感性や社会関係を表現します。そして、芸術作品を通じて、私たちは物象化された現実の背後にある、本来の人間的な関係性を認識することができるようになるのです。
リアリズムとモダニズム
ルカーチは、特にリアリズム芸術に注目し、その代表として19世紀のフランス文学を高く評価しました。バルザックやトルストイといった作家たちは、階級社会の矛盾や人間の心理を鋭く描写することで、物象化された現実を相対化し、真実に迫っていると考えたのです。
一方で、ルカーチは、同時代のモダニズム芸術に対しては批判的でした。彼は、モダニズムが、現実からの逃避や主観主義に陥っているとみなし、全体性の回復ではなく、さらなる断片化を招くと考えました。
総括
ルカーチは、「歴史と階級意識」において、芸術を単なる娯楽や装飾ではなく、物象化された現実を克服し、人間性を回復するための重要な手段として位置づけました。彼の芸術論は、その後のマルクス主義美学に大きな影響を与え、多くの議論を巻き起こしました。