## ラシーヌのフェードルを面白く読む方法
1. 古典主義悲劇の文脈を知る
「フェードル」を楽しむためには、まずそれが書かれた17世紀フランス古典主義演劇の文脈を理解することが重要です。古典主義演劇は、古代ギリシャ・ローマの演劇を規範とし、「三一致の法則」(時間の統一、場所の統一、 Handlungの統一) や「 bienséances 」(良俗に反しない) といった厳しい規則に則って作られていました。当時の観客は、ギリシャ神話を題材とした作品に精通しており、物語の展開や登場人物の運命をある程度予測していました。「フェードル」も、エウリピデスやセネカの作品を下敷きにしており、登場人物たちの葛藤や苦悩は、当時の観客にとって身近なものだったのです。
2. アレクサンドランの韻律と美しさに耳を傾ける
ラシーヌの戯曲は、フランス語の古典詩であるアレクサンドランで書かれています。アレクサンドランは、12音節を1行とし、行末で韻を踏む格調高い詩形で、フランス語特有の美しさと力強さを持ち合わせています。 「フェードル」を読む際には、声に出して音読したり、耳で韻律を味わったりすることで、ラシーヌの紡ぎ出す言葉の魔力を感じ取ることができるでしょう。 特に、登場人物たちの心情が激しくぶつかり合う場面では、アレクサンドランの韻律と響きが、悲劇性をより一層際立たせています。
3. 登場人物たちの心理描写に注目する
「フェードル」は、禁断の恋に苦悩する女性フェードルの心理を描いた作品です。ラシーヌは、古代ギリシャ神話を題材としながらも、登場人物たちの内面を深く掘り下げることで、時代を超えて共感できる普遍的な人間ドラマを生み出しました。
フェードルの揺れ動く感情、継息子への叶わぬ愛に苦悩する姿、義理と愛情の間で葛藤する姿は、現代の私たちにとっても決して遠い世界の話ではありません。 登場人物たちの台詞を読み解き、彼らの心情の変化を丁寧に追っていくことで、「フェードル」はより一層深く味わえる作品となるでしょう。
4. 運命と人間の自由意志について考える
「フェードル」は、登場人物たちが抗うことのできない運命に翻弄される様子を描いたギリシャ悲劇の伝統を受け継ぐ作品です。しかし、ラシーヌは単に運命の残酷さを描くだけではなく、その中で見せる人間の意志の力強さをも描き出しています。 フェードルの苦悩は、彼女自身の選択の結果でもあり、そこに人間の自由意志と責任の問題が浮かび上がってきます。「フェードル」を読むことを通じて、運命と自由意志、そして人間の責任について深く考えさせられるでしょう。
5. 複数の翻訳版を読み比べてみる
ラシーヌの美しいフランス語を堪能するためには原文を読むことが一番ですが、フランス語が苦手な方にとってはハードルが高いかもしれません。 幸いにも、「フェードル」はこれまで多くの翻訳家によって日本語に訳されています。 複数の翻訳版を読み比べてみることで、翻訳家によって異なる解釈や表現技法に触れることができ、「フェードル」への理解をさらに深めることができるでしょう。
これらのポイントを踏まえながら、ラシーヌの「フェードル」を味わってみてください。きっと、古典作品に対するイメージが変わることでしょう。