## ユゴーのノートルダム・ド・パリの主役
### 主役は誰？曖昧な構造と複数の視点
ヴィクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」は、一見すると美しいジプシーの踊り子エスメラルダと、彼女に恋をする登場人物たち（カジモド、フロロ、フェビュス）を中心に展開するように見えます。しかし、この小説は一人の明確な主人公を据えない、複雑な群像劇の構造を取っています。
### エスメラルダ：物語の触媒、受難の象徴
エスメラルダは、純粋さと自由を体現する存在として描かれ、周囲の男性たちの心を激しく揺さぶります。彼女は物語の軸となる重要な人物ですが、自ら行動を起こすことは少なく、むしろ周囲の登場人物たちの行動や感情の「触媒」としての役割を担っています。作中で受ける苦しみや悲劇的な運命を通して、当時の社会における偏見や不正義を象徴する存在とも言えます。
### カジモド：ノートルダム大鐘楼の住人、内面の美と醜さ
ノートルダム大聖堂の鐘撞きであるカジモドは、その醜い外見とは裏腹に、優しく純粋な心を持つ人物として描かれています。エスメラルダへの献身的な愛情と、彼女を救うための勇敢な行動は、読者の同情を誘います。しかし、同時に彼は育ての親であるフロロ司祭への絶対的な忠誠心と、社会からの孤立によって歪んだ感情を抱えており、その内面は単純な善悪では捉えきれません。
### フロロ司祭：禁断の愛に苦悩する知識人
ノートルダム大聖堂の司祭であるフロロは、知性と信仰心に溢れる人物ですが、エスメラルダへの禁断の恋情に苦しみ、次第に狂気に染まっていく姿が描かれます。彼は当時の社会における宗教と理性、欲望と道徳といった対立する価値観に翻弄される象徴的な存在とも言えます。
### フェビュス：軽薄な騎士、社会の縮図
魅力的な騎士であるフェビュスは、エスメラルダの美しさに惹かれますが、同時に婚約者もおり、誠実さには欠ける人物として描かれます。彼は当時の社会における貴族階級の享楽的な生活や、表面的な価値観を体現していると言えるでしょう。
### ノートルダム大聖堂：時代と人を見守る存在
作中で重要な役割を果たすノートルダム大聖堂は、単なる舞台背景ではなく、登場人物たちの感情や運命を見守る存在として、ある種擬人化された存在として描かれています。その壮麗な姿と、長い歴史の中で目撃してきたであろう数々の出来事は、人間の営みの小ささ、そして時の流れの無常さを象徴しているかのようです。
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