## ヤコブソンの言語学と詩学の話法
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言語の六つの機能とそれらに対応する言語活動における要素
ロシア・フォルマリズムを代表する言語学者、文学理論家であるロマン・ヤーコブソンは、1960年に発表した論文 “Linguistics and Poetics” において、人間の言語活動において常に機能する六つの要素と、それぞれの要素に焦点を当てることで成立する六つの言語機能を提示しました。
**1. 発信者(addresser)**: メッセージの送信者。話者や著者がこれにあたります。発信者に焦点を当てた言語機能は**感情表出機能 (emotive function)** と呼ばれ、メッセージの内容よりも発信者の感情、態度、立場などを表現することに重点が置かれます。例えば、感嘆詞や主観的な意見表現などが挙げられます。
**2. 受信者(addressee)**: メッセージの受信者。聞き手や読者がこれにあたります。受信者に焦点を当てた言語機能は**訴求機能 (conative function)** と呼ばれ、受信者の行動、思考、感情に影響を与えることを目的とします。命令文や疑問文などが代表的な例です。
**3. 文脈(context)**: メッセージが伝達される状況や背景。時間、場所、社会的な状況などが含まれます。文脈に焦点を当てた言語機能は**指示表出機能 (referential function)** と呼ばれ、客観的な情報伝達を目的とします。ニュース報道や科学論文などが代表的な例です。
**4. メッセージ(message)**: 伝達される内容そのもの。言語によって表現される意味内容がこれにあたります。メッセージ自体に焦点を当てた言語機能は**詩的機能 (poetic function)** と呼ばれ、言語形式の美しさや面白さを追求します。詩や文学作品、広告などが代表的な例です。
**5. 接触(contact)**: 発信者と受信者を繋ぐ媒体。音声、文字、画像などがこれにあたります。接触の確立と維持に焦点を当てた言語機能は**交話機能 (phatic function)** と呼ばれます。挨拶や雑談などが代表的な例です。
**6. コード(code)**: メッセージの符号化と復号化を可能にする共通の規則体系。言語体系や文法などがこれにあたります。コードの共有を確認することに焦点を当てた言語機能は**メタ言語機能 (metalingual function)** と呼ばれます。辞書や文法書などが代表的な例です。
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詩的機能と他の言語機能の関係
ヤーコブソンは、これらの六つの機能のうち、特に詩的機能を重視しました。詩的機能は、他の言語機能と共存しながらも、言語形式に焦点を当てることで、言語表現に独特の効果をもたらすと考えました。
例えば、日常会話では指示表出機能が中心的な役割を果たしますが、詩や文学作品では、詩的機能が優位に働くことで、言語表現にリズムや韻律、イメージなどが付与され、美的効果を生み出します。
ヤーコブソンは、詩的機能が言語の他の機能を排除するのではなく、むしろ他の機能と相互作用することで、より豊かな表現を可能にすると主張しました。
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ヤーコブソンの言語学と詩学の影響
ヤーコブソンの言語学と詩学は、その後の言語学、文芸批評、記号論などの分野に大きな影響を与えました。特に、言語の多様な機能を体系的に分析したことは、言語の複雑さと豊かさを理解する上で重要な貢献となりました。