モームの月と六ペンスの周辺
主題
:芸術と人生の対立
「月と六ペンス」は、安定した生活を捨てて画家を目指した男チャールズ・ストリックランドの半生を描いた作品です。ストリックランドは、芸術への飽くなき情熱と、それを達成するためなら周囲の人間を踏み躙ることも厭わない残酷なまでのエゴイズムを持った人物として描かれています。
彼の生き様は、物質的な豊かさや社会的な成功よりも、精神的な充足や自己実現を重視する芸術家の生き様を象徴しています。ストリックランドは、月に見立てられる崇高な芸術と、六ペンスに象徴される俗世間的な価値観の狭間で葛藤し、最終的には全てを捨てて芸術の道を選びます。
モデル
:画家ポール・ゴーギャン
ストリックランドのモデルは、後期印象派の画家ポール・ゴーギャンと言われています。ゴーギャンもまた、株式仲買人としての成功を捨てて画家を志し、タヒチに移住して独自の画風を追求しました。
作品中には、ゴーギャンの生涯と共通するエピソードがいくつか登場します。例えば、ストリックランドが絵の才能を見出される前に証券会社で働いていたことや、妻子を捨ててパリに移住すること、南の島で現地女性と暮らすことなどは、ゴーギャンの生涯と重なる部分です。
ただし、モーム自身は「月と六ペンス」はゴーギャンの伝記小説ではないと明言しています。モームはゴーギャンの生き様から着想を得て、独自の解釈を加えることでストリックランドという人物像を作り上げました。
創作方法
:事実と虚構の織り交ぜ
「月と六ペンス」は、ゴーギャンの生涯を基にした部分と、モームの創作による部分が混在しています。モームは、ゴーギャンの伝記や書簡を参考にしながらも、登場人物やストーリー展開に独自の脚色を加えました。
例えば、ストリックランドの性格や言動は、ゴーギャンよりもさらに極端で冷酷なものとして描かれています。また、ストリックランドの最期は、ゴーギャンとは異なり、ハンセン病によって失明した後も創作活動を続け、死後にその作品が評価されるという劇的なものとなっています。
このように、「月と六ペンス」は、ゴーギャンの生涯を忠実に再現した作品ではなく、モームが独自の解釈を加えることで生み出したフィクション作品として理解する必要があります。