## モリエールのタルチュフの価値
戯曲としての価値
モリエールの『タルチュフ』は、17世紀フランス古典主義演劇の傑作として、その文学的価値は極めて高いとされています。
まず、登場人物の造形が非常に優れています。敬虔な信者を装いながら、その実、欲望に忠実な偽善者タルチュフの姿は、現代社会にも通じる普遍的な人間の弱さを鋭く描き出しています。 また、タルチュフに騙されるオルゴンや、彼の正体を見破ろうとする家族たちの姿も、喜劇的なタッチで生き生きと描かれています。
次に、韻文で書かれた台詞の美しさも魅力の一つです。 フランス古典主義演劇の特徴である alexandrin (アレクサンドラン) と呼ばれる12音綴の韻文を用いることで、格調高く、美しい響きを生み出しています。 特に、タルチュフがオルゴンの妻エルミールに言い寄る場面での甘言は、その言葉の巧みさが際立っています。
さらに、風刺の鋭さも作品の魅力を高めています。 当時のフランス社会では、宗教的な権威を笠に着て私腹を肥やす偽善者が横行していました。 モリエールは、タルチュフという人物を通して、そうした社会悪を痛烈に批判しています。
歴史的価値
『タルチュフ』は、初演当時から大きな反響を呼び、様々な論争を巻き起こしました。 作品の内容が、当時の宗教界を痛烈に風刺したものであったため、敬虔なキリスト教徒から激しい非難を浴びたのです。 上演禁止の処分を受けながらも、モリエールは諦めることなく、内容を修正しながら上演を続けました。
『タルチュフ』の上演を巡る騒動は、表現の自由の重要性を考える上で、今日でも重要な意味を持ちます。 また、この作品は、17世紀フランスの社会や文化を理解する上でも貴重な資料となっています。