メンガーの国民経済学原理の話法
メンガーの語り口の特徴
カール・メンガーの主著『国民経済学原理』(1871年)は、その後の経済学を大きく変革した限界革命の出発点と見なされています。本書は、従来の経済学とは異なる独特な話法で書かれており、その特徴は主に以下の3点に集約されます。
1. 演繹的な論理展開
メンガーは、人間の経済活動を支配する基本的な法則、すなわち「人間の欲望と、その欲望を満たすための手段との間の関係」を出発点として、そこから厳密な論理によって様々な経済現象を説明しようと試みました。これは、当時のドイツ歴史学派のように歴史的な事例を積み重ねていく帰納的な方法とは対照的な、ユークリッド幾何学のような演繹的な方法です。
2. 主観的価値理論の重視
メンガーは、財の価値は客観的な要素によって決まるのではなく、あくまでも人間の主観的な評価によって決まると考えました。彼は本書の中で、「財」と「経済財」を明確に区別し、財が人間の欲求を満たす限りにおいて初めて経済財となり、価値を持つようになると論じています。
3. 抽象的な概念とモデルの使用
メンガーは、複雑な現実の経済現象を分析するために、抽象的な概念やモデルを積極的に用いました。例えば、彼は財の価値を決定する要因として、「限界効用」という概念を導入し、財の価値は、その財を消費することによって得られる追加的な満足度(限界効用)によって決まると説明しました。
これらの特徴を持つメンガーの話法は、当時の経済学界においては非常に斬新なものでした。彼の著作は、限界革命のきっかけとなり、現代経済学の基礎を築く上で重要な役割を果たしました。