## メンガーの国民経済学原理の表象
表象:経済現象の本質への洞察
カール・メンガーの主著『国民経済学原理』(1871年)は、経済学に新たな視点を導入し、後のオーストリア学派の礎を築いた画期的な著作として知られています。メンガーの貢献は、経済現象を人間の主観的な価値判断と行動に基づいて解明しようとした点にあり、その中心的な概念が「表象」です。
メンガーにおいて、表象とは、人間が外界の事物や現象に対して持つ主観的な認識やイメージを指します。重要なのは、この表象が客観的な現実とは必ずしも一致しない点です。人間は、それぞれの経験、知識、価値観に基づいて外界を解釈し、独自の表象を形成します。そして、経済活動における人間の行動は、この主観的な表象に導かれているのです。
例えば、ある財に対する需要は、その財の客観的な有用性ではなく、消費者がその財から得られると考える主観的な満足、すなわち「限界効用」に依存します。同じ財であっても、人によって、あるいは同じ人であっても時間や状況によって、その財に対する表象、ひいては限界効用は変化します。
メンガーは、経済学の目的は、この主観的な表象に基づく人間の行動を理解し、その結果として生じる経済現象を説明することだと考えました。彼は、表象という概念を用いることで、従来の古典派経済学が重視してきた客観的な価値や価格の決定メカニズムを、人間の主観的な行動原理から解明しようと試みたのです。
表象は、単なる心理学的概念ではなく、経済現象を分析するための方法論としても重要な意味を持ちます。メンガーは、経済学は、人間の表象を出発点として、論理的な推論によって経済法則を導き出す「純粋理論」であるべきだと主張しました。これは、歴史や統計データに基づく実証主義的な手法とは対照的な、オーストリア学派の特徴的な方法論となっています。