メルヴィルの白鯨の感性
感性の多様性
「白鯨」は、単一の感性で括ることが難しいほど、多様な感情、雰囲気、文体を内包しています。壮大な海の描写に見られる
自然の驚異と畏怖、エイハブ船長の狂気と執念に満ちた復讐心、クィークェグとの友情にみられる
人間同士の温かい交流など、様々な感情が複雑に絡み合い、作品全体を彩っています。
暗いロマン主義
「白鯨」は、しばしば暗いロマン主義の傑作として位置付けられます。自然の圧倒的な力の前では、
人間の力はあまりにも小さく、無力であるという認識が根底にあります。白鯨は、
そのような抗い難い運命、あるいは不可知な存在の象徴として描かれ、人間の傲慢さと悲劇を描いています。
聖書からの影響
作中には、旧約聖書や新約聖書からの引用、寓意、象徴がふんだんに散りばめられています。エイハブ船長は、
自身の狂気を正当化するために聖書の言葉を引用しますが、それは同時に彼の内面における罪の意識、
そして神への反逆をも暗示しています。
写実性と象徴性の融合
メルヴィルは、捕鯨船での実体験をもとに、当時の捕鯨の様子や船上生活を克明に描写しています。しかし、
「白鯨」は単なる海洋冒険小説に留まりません。白鯨は、自然の象徴、悪の象徴、あるいは神、
運命など、様々な解釈が可能な存在として描かれ、読者に多様な解釈の可能性を提供しています。
人間の多面性
「白鯨」には、様々な背景や性格を持つ登場人物が登場し、人間の多面性が浮き彫りになります。
狂気と執念に取り憑かれたエイハブ船長、理性的な航海士スターバック、敬虔なクエーカー教徒の
ガーデナーなど、対照的な人物像を描くことで、善悪、理性と狂気、信仰と懐疑など、
普遍的なテーマを浮かび上がらせています。