ミルトンの失楽園の原点
聖書の創世記
「失楽園」の最も明白で重要な原点は、旧約聖書の創世記です。特に1章から3章にかけて描かれる、神の天地創造、アダムとイブの楽園での生活、蛇の誘惑による禁断の果実の実食、そして楽園からの追放という物語は、「失楽園」の核となるプロットを構成しています。
ミルトンは聖書の言葉を借りながら、登場人物たちの心理描写や物語世界をより詳細に描き出すことで、創世記の物語を壮大な叙事詩へと昇華させています。例えば、アダムとイブの会話や葛藤、サタンの反逆の動機や苦悩などが克明に描写され、単なる善悪の対立を超えた人間的なドラマが展開されます。
キリスト教神学
「失楽園」は、単に聖書の物語を再話したものではなく、ミルトンの深遠な神学的知識に基づいた作品でもあります。特に、自由意志と予定説、神の摂理と人間の責任、罪と贖罪といったキリスト教神学における重要なテーマが、作品全体を通して問われています。
例えば、アダムとイブは、神に背く自由意志を持つと同時に、彼らの堕落は神の計画の一部であったとも解釈できます。また、サタンの反逆は、神の絶対的な力に対する疑問を投げかけると同時に、自由意志の行使に伴う責任の大きさを浮き彫りにしています。
ミルトンは、これらの複雑な神学的テーマを、登場人物たちの対話や行動、そして壮大な宇宙観を通して表現することで、読者に深い思索を促しています。