## ミルの代議制統治論の原点
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思想的背景
ジョン・スチュアート・ミルは、19世紀イギリスの哲学者・経済学者であり、その主著『代議制統治論』(1861年)は、近代民主主義理論の古典として位置づけられています。彼の思想は、主に以下の三つの源流から形成されました。
* **功利主義:** ミルは、ベンサムの提唱した功利主義を継承し、発展させました。功利主義は、「最大多数の最大幸福」を道徳の原理として掲げ、社会制度や政策の評価基準を「幸福の増進」に置きます。ミルは、代議制を擁護する際にも、それが人々の幸福を実現する上で最も効果的な政治体制であると論じています。
* **自由主義:** ミルは、個人の自由を最大限に尊重する自由主義の立場から、思想・言論の自由の重要性を強調しました。彼は、政府の権力行使は必要最小限に抑えられるべきであり、個人の自由に対する干渉は正当な理由がある場合に限定されるべきだと考えました。
* **啓蒙主義:** ミルは、啓蒙主義の理性と進歩に対する信念を受け継ぎ、教育の普及による人々の理性的な判断能力の向上と社会の進歩を期待しました。彼は、代議制が機能するためには、市民一人ひとりが理性に基づいた判断を行い、積極的に政治に参加することが不可欠だと考えました。
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執筆の背景
ミルが『代議制統治論』を執筆した19世紀半ばのイギリスは、産業革命の進展に伴い、社会構造が大きく変化した時代でした。
* **選挙法改正運動:** 産業革命によって台頭した新興資本家階級や労働者階級の間で、選挙権の拡大を求める運動が活発化していました。ミル自身も選挙法改正運動に参加し、普通選挙の実現を訴えました。
* **フランス二月革命:** 1848年にフランスで起きた二月革命は、ヨーロッパ全土に大きな衝撃を与え、イギリスにおいても民主主義への期待と同時に、社会不安への懸念が高まりました。
* **アメリカ合衆国の発展:** 当時、新興国であったアメリカ合衆国では、民主主義に基づく政治体制が成功を収めつつありました。ミルは、アメリカ合衆国の政治制度を参考にしながら、イギリスにおける代議制のあり方について考察しました。
これらの時代背景を踏まえ、ミルは『代議制統治論』において、単なる代議制の仕組みだけでなく、それが適切に機能するために必要な条件や課題についても深く論じています。