## マーシャルの経済学原理の発想
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経済学を社会生活の研究として位置付ける
アルフレッド・マーシャルは、主著『経済学原理』(1890年) において、従来の経済学の枠組みを大きく刷新しました。彼は経済学を「富の研究」として狭義に捉えるのではなく、「社会生活の研究」という広範な視点から捉え直しました。
マーシャルは、人間を単なる経済合理的な存在としてではなく、道徳や感情、社会的な影響を受ける複雑な存在として捉えました。彼の分析は、人間の行動における経済的な側面と非経済的な側面の相互作用を重視するものでした。
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部分均衡分析と時間要素の導入
マーシャルは複雑な経済現象を分析するために、部分均衡分析という手法を採用しました。これは、他の条件を一定と仮定し、特定の市場や経済変数に焦点を当てて分析を行う方法です。
また、彼は時間要素を重視し、市場の調整速度に応じて「市場期間」「短期」「長期」という区分を設けました。これにより、生産要素の調整可能性や価格の硬直性といった現実的な要素を分析に組み込むことができました。
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需要と供給の相互作用と均衡価格の決定
マーシャルは、需要と供給を「はさみ」に喩え、両者が相互作用することで均衡価格が決定されると説明しました。需要は消費者の効用最大化行動を基礎とし、供給は生産者の費用最小化行動によって決定されます。
彼は、需要曲線は限界効用逓減の法則に基づいて右下がりに、供給曲線は収穫逓減の法則に基づいて右上がりに描かれることを明らかにしました。そして、両曲線が交わる点で均衡価格と均衡量が決定されるとしました。
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限界分析の導入と消費者余剰・生産者余剰の概念
マーシャルは、経済分析に限界革命の成果を取り入れ、限界効用や限界費用といった概念を重視しました。彼は、消費者は限界効用が価格と一致するまで財の消費を増やし、生産者は限界費用が価格と一致するまで生産量を増やすと説明しました。
また、彼は消費者余剰と生産者余剰の概念を導入し、市場取引によって生み出される経済厚生を定量化しようとしました。消費者余剰とは、消費者が支払う意思のある価格と実際に支払う価格との差額を、生産者余剰とは、生産者が受け取る価格と生産費用との差額を示します。