マンのヴェニスに死すに影響を与えた本
プラトンの対話篇
トーマス・マンの『ヴェニスに死す』は、その強烈な美と差し迫った破滅の両方に対する執着というテーマを探求した、層状で複雑な小説です。この作品に影響を与えた多くの文学的、哲学的源泉の中で、プラトンの対話篇は特に重要な位置を占めています。特に『パイドロス』と『饗宴』の対話は、マンの小説の2つの主要なテーマ、すなわち美と欲望の超越的な性質、そして肉体的および精神的な愛の対照的な性質についての洞察を提供しています。
『パイドロス』では、プラトンはエロス、すなわち愛の概念を探求しています。ソクラテスは、美に対する欲望は、感覚的な喜びを超越した、より高い形の愛への梯子となり得ると主張しています。美を熟考することは、魂を思い出させ、それを理想的な形の世界へと導きます。この考え方は、『ヴェニスに死す』で、老いた作家グスタフ・フォン・アッシェンバッハが、ポーランドの少年タジオの息を呑むような美しさに執着する様子に反映されています。タジオへのアッシェンバッハの執着は、最初は肉体的な魅力として描かれていますが、すぐに美しさの超越的な、ほとんど精神的な瞑想へと変わっていきます。アッシェンバッハはタジオを、芸術的インスピレーションの源であり、自分の抑圧された欲望と老化に対する恐怖を投影する対象と見なしています。
『饗宴』は、愛の性質についてのさまざまな視点を探求した、一連の講演を通じて、このテーマをさらに深く掘り下げています。エロス神への賛歌の中で、ソクラテスは、美への愛は最終的に、美しい形そのもの、つまり永遠で不変の美の概念の知識につながると主張しています。この対話の中で描かれた、肉体的、精神的な愛の間の緊張関係は、『ヴェニスに死す』の重要な要素です。アッシェンバッハがタジオに夢中になることは、彼自身の禁欲主義、規律、形への献身と対照的です。美と欲望に対する彼の下劣な降伏は、彼自身の抑制された性質との内的葛藤を生み出し、最終的には彼の没落につながります。
さらに、プラトンの対話篇は、マンの小説に見られる、アポロ的なものとディオニソス的なものという対照的な衝動を探求しています。アポロ的なものは、理性、規律、調和を象徴していますが、ディオニソス的なものは、本能、混沌、陶酔を表しています。アッシェンバッハは、芸術家であり個人として、アポロ的な原理によって形作られた生活を送ってきました。しかし、タジオへの執着は、彼の中で抑制されていたディオニソス的な欲望を解き放ち、彼の注意深い自己制御とヴェニスの衰退しつつある都市の背景に対して、混沌と放棄の感覚を生み出します。
要約すると、プラトンの対話篇、特に『パイドロス』と『饗宴』は、美と欲望の性質、肉体的および精神的な愛の二分法、アポロ的なものとディオニソス的なものの対照的な衝動の探求を通じて、『ヴェニスに死す』のテーマ的複雑さに大きく貢献しています。これらの哲学的概念に対するマンの取り組み方は、美的およびエロティックな魅力、自己欺瞞、魂の超越的な憧憬というプリズムを通して、老化、没落、執着の性質についての痛烈な考察であることが証明されています。