マルサスの人口論の思想的背景
マルサスに影響を与えた思想家たち
トマス・ロバート・マルサスの『人口論』 (初版1798年) は、発表当時大きな反響を呼び、その後の社会思想、経済学、人口学に多大な影響を与えました。マルサスは、当時の社会状況や先行する思想家たちの影響を受けて、独自の理論を構築しました。
啓蒙主義と楽観主義
マルサスは、18世紀後半のヨーロッパを席巻していた啓蒙主義の影響を強く受けました。啓蒙主義は、理性と科学の力を信じ、人間の進歩と社会の改善を optimisticallyに 捉えていました。当時の代表的な思想家である、ジョン・ロックやジャン・ジャック・ルソーは、人間は生まれながらにして自由で平等であると主張し、教育や政治改革によって理想的な社会を実現できると考えました。このような楽観的な社会観は、マルサス自身の思想の背景にもなっています。
産業革命と社会不安
マルサスが『人口論』を執筆した18世紀後半は、イギリスで産業革命が本格化し、社会構造が大きく変化した時代でもありました。工場労働者の増加は都市部への人口集中を引き起こし、貧困、失業、犯罪などの社会問題が深刻化していきました。このような社会不安の高まりは、マルサスに人口問題の深刻さを認識させる一因となりました。
ウィリアム・ゴドウィンの影響
マルサスは、当時の思想家ウィリアム・ゴドウィンの思想に反論する形で『人口論』を執筆しました。ゴドウィンは、著書『政治的正義』の中で、理性に基づいた教育と社会改革によって貧困や犯罪のない理想社会を実現できると主張しました。マルサスは、ゴドウィンの楽観的な人間観と社会観を批判し、人口の増加が社会進歩の制約となることを論じました。