ボワイエの啓蒙哲学入門の対極
啓蒙主義への反論：エドマンド・バークの「フランス革命の省察」
エドマンド・バークの「フランス革命の省察」（1790年）は、ボワイエの「啓蒙哲学入門」とは対照的な立場から、フランス革命とその背後にある啓蒙主義思想を批判した書物です。ボワイエが啓蒙主義の理念、特に理性、進歩、普遍主義を擁護したのに対し、バークは伝統、経験、偏見の重要性を強調し、フランス革命の急進的な変革と抽象的な理念に基づく政治を厳しく非難しました。
伝統と経験の擁護
バークは、人間社会は複雑で長い歴史の中で形成されたものであり、抽象的な理性や普遍的な原則だけで理解することはできないと主張しました。彼は、伝統や偏見は、過去の世代の知恵や経験の蓄積であり、社会の秩序と安定を維持するために不可欠な要素だと考えました。フランス革命が伝統や慣習を破壊し、抽象的な人権宣言に基づいて新しい社会を構築しようとしたことを、バークは危険な試みと見なしました。
フランス革命への批判
バークは、フランス革命がもたらした暴力と混乱を目の当たりにし、啓蒙主義の理想主義的な思想に強い疑念を抱きました。彼は、革命政府が個人の自由を抑圧し、恐怖政治によって反対派を弾圧したことを批判しました。また、革命によって伝統的な社会秩序が崩壊し、フランスが内戦と外国の干渉に苦しむことになったと指摘しました。
政治における現実主義
バークは、政治においては抽象的な理念よりも、現実的な状況判断と経験に基づいた漸進的な改革が重要だと考えました。彼は、人間の理性には限界があり、完璧な社会を設計することは不可能だと主張しました。バークにとって、政治は試行錯誤のプロセスであり、伝統や歴史から学びながら、社会の秩序と安定を維持することが最優先事項でした。