ボナールの友情論の思索
ボナールの友情論における主要な論点
ボナールの友情論は、その主要な著作である『意志と間接認識』の一節を占めるのみであり、体系的な論述として展開されているわけではありません。しかし、そこにはボナールの哲学の根幹に関わる重要な認識論的、倫理的な考察が含まれています。
認識論的な観点からの考察
ボナールは、我々が他者を認識する際、直接的にその内面を知ることはできず、あくまでも外面的な表象を通してのみ可能であると主張します。つまり、他者の喜びや悲しみ、思考や感情といったものは、我々にとって直接的にはアクセス不可能な、いわば「閉ざされた世界」なのです。
倫理的な観点からの考察
こうした認識論的な前提に立ち、ボナールは、他者との関係において「想像力」の重要性を強調します。
ボナールによれば、真の友情は、単に共通の趣味や利害によって成立するものではなく、互いに相手の「閉ざされた世界」を想像し、尊重し合うことによって初めて可能となります。
ボナールの友情論の独自性
ボナールの友情論は、しばしば「孤独」や「悲観主義」と結びつけられます。確かに、ボナールは、人間存在の本質的な孤独を強調し、完全に理解し合える関係の可能性については、きわめて懐疑的です。
しかし、彼の思想は、決して他者との関係を否定するものではありません。むしろ、ボナールは、他者の「不可知性」を真摯に受け止めた上で、想像力と共感に基づく倫理的な関係を築き上げることの重要性を訴えているのです。