ボアンカレの科学と仮説を読んだ後に読むべき本
トーマス・クーン著 科学革命の構造
アンリ・ポアンカレの『科学と仮説』を読み終え、科学における直観と論理、客観性と主観性の関係について考察を深めた読者にとって、次に読むべき重要な一冊として、トーマス・クーンの『科学革命の構造』が挙げられます。『科学と仮説』が主に数学と物理学における認識論的な問題を扱っているのに対し、『科学革命の構造』はより広範な科学史と科学哲学の観点から、科学の進歩の過程そのものを問い直すものです。
クーンは本書において、科学は累積的に進歩するという従来の見解を批判し、「パラダイム」という概念を提唱します。パラダイムとは、特定の時代に科学者共同体が共有する、問題や解決方法、世界観などを含む思考の枠組みです。科学者はパラダイムに基づいて研究を進め、その枠組みの中で成果を積み重ねていきます。しかし、パラダイムでは説明できない問題や矛盾が蓄積していくと、科学者共同体は危機に直面し、新たなパラダイムへの移行が起こります。クーンはこのような断続的なパラダイムの転換を「科学革命」と呼びます。
クーンの主張は、科学の客観性や合理性に対する根本的な問い直しを迫るものであり、科学史や科学哲学の分野に大きな影響を与えました。例えば、異なるパラダイム間では、理論の優劣を判断する共通の基準が存在しないという「共約不可能性」の概念は、科学的知識の相対性を示唆するものであり、多くの論争を引き起こしました。
『科学と仮説』と『科学革命の構造』は、どちらも科学の基礎を問い直すという点で共通しており、互いに補完し合う関係にあります。ポアンカレの思想をさらに深め、科学の進歩、客観性、真理の natureza についてより深く理解するためには、『科学革命の構造』を読むことは非常に有益です。特に、ポアンカレが重視した科学における直観や美的感覚が、クーンのパラダイム転換においてどのように機能するのかを考えることは、科学のダイナミズムを理解する上で重要な視点を与えてくれるでしょう。