ホールのアメリカ史の解釈の話法
歴史叙述における「解釈」の位置づけ
歴史家は、史料という過去の断片を解釈という糸で紡ぎ合わせ、歴史叙述を構築します。この過程で、歴史家の持つ史観や方法論、そして依拠する史料によって、同じ史実に対しても多様な解釈が生まれます。歴史は単なる過去の出来事の羅列ではなく、歴史家の解釈によって意味づけられ、物語として再構成されるのです。
ホールの解釈の特徴:相対主義と多角的な視点
アメリカの歴史家フレデリック・ジャクソン・ターナーは、フロンティアという未開拓地の存在がアメリカの民主主義や国民性を育んだとする「フロンティア thesis」を提唱しました。一方、チャールズ・オースティン・ベアードは、アメリカ憲法を経済的な利害に基づいて解釈し、建国の父たちを批判的に評価しました。
こうした先行研究を踏まえつつ、ホールはアメリカ史の解釈において、特定の史観やイデオロギーに偏ることなく、多様な視点を提示することを重視しました。彼は、歴史は複雑で多面的であり、単一の解釈で捉えきれるものではないと考えたのです。
具体的な著作における解釈の提示:『アメリカの歴史』を例に
ホールの主著『アメリカの歴史』では、植民地時代から現代までのアメリカ史を、政治、経済、社会、文化など多角的な視点から描き出しています。彼は、特定の出来事や人物を英雄視したり、断罪したりするのではなく、それぞれの時代背景や立場を考慮しながら、多面的でバランスの取れた解釈を提示することに努めました。
例えば、奴隷制というアメリカ史における負の遺産についても、単に道徳的に批判するのではなく、当時の社会構造や経済状況、南北間の政治的な対立などを考慮しながら、多角的に分析しています。